「男には女の気持ちは解からない、ということ」やさしい女 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
男には女の気持ちは解からない、ということ
ブレッソン監督作品は、映画を観はじめた中学の頃に『白夜』を、その後『抵抗』を観たきり。
『白夜』が理解できなかったトラウマというかなんというか、そんなものがあって、永年その他の作品を観るのを無意識に避けてきた感じ。
今回、改めてブレッソン作品に挑戦してみて・・・
うーむ、素直に、おぉすごい、素晴らしい、といえないところがもどかしい。
なんというか、あまりに説明がなさすぎるというか、非情というか。
なかなか、心情的には判りづらい。
それもそうで、このハナシ、年若い女性に惚れて結婚した夫が「おんなは、わからない・・・」といっているのを、夫の視点・回想で進めているからだ。
「貧しい家庭で勉学にも困っている女性に惚れ、その境遇から助けたのだから、あとはオレのことを好きになってくれよ、困ったことなんかがあれば当然助けてやるから」
これが夫の主張である。
「男は愛よりも、結婚を望むのね。愛は互いを理解すること。けれど、結婚は、価値観を押し付けて、型にはめる代わりに、不自由な暮らしはさせないという約束にしかすぎないわ」
女はこのように言っている。
ただし、それを口に出さない。
なぜなら彼女は「Une Femme Douce」だから。
英語でいうと「A Gentle Woman」、弁(わきま)えた女、だから。
そういう女と男の成り行きを、ブレッソンは少ない台詞、短いシークエンスで繋いでいきます。
なので、心情的にわかる前に映画が進んでいきました。
ここが、素直に、おぉすごい、素晴らしい、といえず、もどかしいところ。
しかし、中盤、夫が妻は浮気をしているのではなかろうか、と勘繰る下種な展開になってから、俄然、おもしろくなりました。
そうか、夫は誤解しているのかぁ、いや、誤解でなく非解しているのだ、と気づいたから。
浮気現場を押さえんとして、車に乗り込む夫のワンカット、ヒッチコックも顔負けのサスペンスカット。
自動車の後部、ハンドルの後ろ側から質屋の入り口を見透かすカメラ。
質屋のドアを開け、自動車に乗り込む夫。
上着の裾がシートの上に引っかかったまま発車させる。
それだけなのに、恐ろべしいほどの緊張感なのだ。
じゃぁ、夫はなにを解かっていないのか・・・と、このあたりから考え始めた。
すると・・・
「男は愛よりも、結婚を望むのね」といった女の台詞。
金の十字架からキリスト像だけを質入れから返そうとした無情な(非愛な)夫。
彼女の好きな音楽や博物学に興味を寄せない夫。
そして、好きでもない観劇や旅行に誘う夫。
価値観を押し付けて、型にはめるばかり。
だから、会話するよりも、沈黙のほうがふたりには心地いい。
ああ、怖い。
すれ違う男女の心なんてものじゃないな、これは。
巻頭と巻末で、窓の外を舞う女の白いショールは、やっと解き放たれた女の象徴なのだろう。