劇場公開日 2025年10月24日

「あえてそれぞれの立場を正義とし、勧善懲悪の要素や雌雄を決しないエンディングで、登場人物たちのその後の想像を促す余白を与えている点は、脚本としても見事ですね。」もののけ姫 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 あえてそれぞれの立場を正義とし、勧善懲悪の要素や雌雄を決しないエンディングで、登場人物たちのその後の想像を促す余白を与えている点は、脚本としても見事ですね。

2025年10月26日
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鑑賞方法:映画館

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1997年の公開当時、長らくランキングトップだった『E.T.』や『南極物語』を抜き、200億円に迫る圧巻の興行収入を記録し、一大ジブリブームを巻き起こした『もののけ姫』が、スタジオジブリのアーカイブ作品として初めて4Kデジタルリマスター化され、10月24日からIMAX上映。
チケット販売からほぼ瞬殺の中、辛うじて世界最高峰のIMAXスクリーンを誇るグランドシネマサンシャイン池袋さんの17:05の回を最前列で鑑賞。

『もののけ姫』(1997年/133分)
『紅の豚』(1992年)以来5年ぶりの宮崎駿監督作品。
本作公開前のジブリ作品は『耳をすませば』(1995年)と『平成狸合戦ぽんぽこ』(1994年)がありましたが、公開初日からの猛烈な観客動員は特筆すべきものでした。逆に初期ジブリファンとしては嬉しさの反面、世間に知られてしまった一抹の寂しさを覚えたものです。

公開当時はただただアニメーションのクオリティの高さに圧倒されっぱなしで、その後もパッケージやテレビ放映で何度も鑑賞しているのですが、今回のIMAXでの超巨大スクリーンの体感は別格。
テレビ画面では判別できない細かな作画がはっきりと確認できました。
まだ3DCGもごく一部しか導入されておらず、ほぼ手書きセル画で制作された一枚一枚の作画と、滑らかで躍動する動きは28年経った現在でも見事な芸術の域です。

テーマは人間と自然との共生。
人間の神(八百万の神)を殺すこと=自然破壊。
『風の谷のナウシカ』から脈々と受け継がれる宮崎監督が追い求める永遠のテーマをより高次元のものへと高めています。

時代背景は室町時代と推測される頃。
平安時代に起きた坂上田村麻呂の蝦夷討伐などを下地に、エボシ御前を伝説上の鈴鹿御前をモデルにしており、きちんと時代考証を交えています。

主人公のアシタカ、ヒロインのサン、森林から伐採して薪を得て製鉄と石火矢を作り出すエボシ御前ほかタタラ場の民、ジコ坊、もののけたちが魅力的に描かれ、それぞれに主義主張と大義があり、それがクライマックスで激しくぶつかり合い、最後はシシ神(ディダラボッチ)の消滅によって、もう一度自然が再生し、クリアな状態からそれぞれの新たなスタートで幕を閉じます。

あえてそれぞれの立場を正義とし、勧善懲悪の要素や雌雄を決しないエンディングで、登場人物たちのその後の想像を促す余白を与えている点は、脚本としても見事ですね。
アニメーションの技術面以外のテーマ性、脚本の面でもアニメ史、日本映画史に残る金字塔ですね。

矢萩久登
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