劇場公開日 2024年2月16日

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「新たな千年紀が始まった頃」ミレニアム・マンボ バラージさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 新たな千年紀が始まった頃

2025年8月15日
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鑑賞方法:DVD/BD

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4Kレストア版で20年ぶりに再観賞。舞台は2001年の台北。地方から出てきて男と同棲している主人公の若い女性は、仕事もせずにDJの真似事やクラブ通い、ゲーム、酒、タバコ、ドラッグと遊び呆け、そのくせ異常なほど嫉妬深く束縛してくる男にうんざりしているが、なんだかんだで別れることができない。生活費のためにホステスの仕事を始めた主人公は、そこに客としてよく来る包容力のある中年ヤクザに惹かれていく。ある日、同棲相手の暴力に耐えかねた主人公はアパートを飛び出し、ヤクザのもとに駆け込むが、やがて彼も子分の揉め事から彼女を置いて日本へ高飛びする。主人公は彼を追って、東京、そして北海道の夕張へと赴くのだが……。

刹那的に生きる現代の若い女性を主人公とした映画だが、最初に観た当時はそれまでのホウ・シャオシェンの映画とかなり違うのでちょっと戸惑った。全体的な作風は間違いなくホウ・シャオシェンなんだが、流れる音楽がそれまでのホウ・シャオシェン映画には無いエレクトロミュージックだったし、香港映画でスターとなったスー・チーを主演に起用したのも意外だった。だが今になってみると、この映画が21世紀のホウ・シャオシェン映画を方向づけたということがよくわかる。ほとんど脚本らしい脚本もなくリハーサルもせず、あらかじめ決まったセリフさえ無いというスタイルの撮影だったとのことだが(ただし状況設定だけは入念にディテールを盛り込む)、スー・チーはホウ・シャオシェンの高い要求に応えられる俳優だったのだろう。ホウ・シャオシェン自身がスー・チーの存在で自らの映画の方向性が変わったと言っているし、スー・チーもホウ・シャオシェンとの出会いで演技や映画の哲学が変わったという。その後、『百年恋歌』、そして結果的にホウ・シャオシェンの最後の映画となった『黒衣の刺客』まで、ホウ・シャオシェンはスー・チーを主演に起用し続けた。

とにかく観ていて痛感するが、スー・チーが存在するだけで映画になるということが素晴らしい。観ていてつい彼女を目で追ってしまう。まさに映画女優だ。夕張で片言の日本語をしゃべり、積もった雪にダイブするスー・チーの愛らしさ。そういえば2010年の中国映画『狙った恋の落とし方。』でもスー・チーは北海道に来ていた。『ミレニアム・マンボ』と前後して公開された香港映画『スイート・ムーンライト』は東京が舞台だし、意外に日本と縁がある女優だ。2001年(か2000年)の冬の夕張が映し出されるのも今となっては貴重。あの頃はまだ夕張映画祭が盛んだったんだな。懐かしい。

バラージ