劇場公開日 1989年3月11日

「正にブラック・ライブズ・マターそのものです」ミシシッピー・バーニング あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0正にブラック・ライブズ・マターそのものです

2020年10月19日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

BLMとは何か?
黒人の命も大事?
そんな甘い日本語訳では何も伝わらない
「黒人の生死に関わる問題」なのです
本作は理屈などでなく、一発でズバリその本質を雄弁に映像で分からせてくれます

1964年に米ミシシッピ州フィラデルフィアで実際にあった事件をモチーフにしています

その田舎町は、隣のアラバマ州バーミンガムから約260キロほど西にあります

バーミンガムは黒人の公民権運動に関心のある人なら誰もが知っている街です
なぜなら、本作で扱われる事件の前年1963年春の「バーミンガム運動」があったところだからです

あのキング牧師が指導し、市の差別的な法律を変えさせた非暴力運動です
マスコミの注目を引きつけたことで、この運動は全米的な力を生み出したのです

何度も台詞に登場するNAACPとは、全米有色人地位向上協会とのこと
SCLCとはキリスト教指導者会議のこと
後者はキング牧師の組織です

本作はその事を知っていれば、より深くなぜこのような事件が起こったのかが理解できると思います
序盤、FBIの捜査員の二人は車でミシシッピ州の州境を越えます
ワシントンからは約1450キロ、その道は途中バーミンガムを通過します
「ようこそモクレンの里、ミシシッピ州へ!」と看板が道端にあります
モクレンの花言葉「高潔な心」
なんという皮肉であるかかが次第に明らかになります
劇中で、7歳の頃にはもう差別が当たり前の事になっているという台詞があります
因襲の世界です
差別をする大人達は当時20代としても、2020年の今は80代です
世代は入れ変わっているはずです

最後に移される三人の犠牲者の墓石には、「1964年忘れまじ」と碑文が彫られてあります
しかし、その上部はハンマーで破壊されたらしく、辺りに欠片が散らばっています
つまり差別の因襲の根は深く、裁判で犯人達が有罪になったところで変わってはいないのです

それでもラストシーンの葬儀には黒人だけでなく、白人の若者達の顔がチラホラと混じっています
古い因襲はこの若者達の世代になればきっと消え去っている、そのはずだった

本作の公開は1988年
事件から34年が経っています
世代は変わりました
ラストシーンの白人の若者達は、本作でのKKK 団の連中と同じ年頃の中年になりました
表面的な差別は消えた
でも本当に消えたのか?
それが本作のテーマです

冒頭の水飲み場のシーン
一本の給水管が二つに別れ、左は白人専用のウォータークーラーに繋がっています
右は有色人種専用で、ただのみすぼらしい蛇口なのです

このような目で見える差別はもう消えました
でも目に見えない形で残されているのではないのか?
同じ人間に産まれても、人種によって人生が異なってしまう
人生の可能性、機会の平等は、実は目に見えないこのような水飲み場のようになってはいないのか?
それを本作は訴えているのです

そして21世紀の2020年
本作公開から32年が経ちました
本作の事件と本作公開との間とほぼ同じ歳月が過ぎました

また一つ世代が変わったのです
事態は改善されたのでしょうか?
古い因襲は消えたのでょうか?

答えはブラックライブズマター運動です
変わっていない
むしろ後戻りしているのです
時間が解決する?
そんなことは嘘だったのです
世代が変わっても解決されなかったのです

その絶望はとてつもなく深いのだと思います

いまこそ本作を観るべきです

あき240