真夜中の虹のレビュー・感想・評価
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その日は船で
アキ・カウリスマキの中で最もハードボイルドな作品だ。ハードボイルドの属性として小説の場合は短いセンテンスが特徴だが、この映画も感情の入り込む余地を与えないくらい短いシークエンスでフェード・アウトする。失職して父が自殺して強盗に襲われて有り金奪われて刃傷沙汰で理不尽な逮捕をされてと「大ピンチずかん」の連続だが、主人公はほとんど表情を変えず淡々としている。ハードボイルドだ。何なら知り合った女の息子も輪をかけてハードボイルドで、微笑ましい。
封切りの時に見て以来30有余年ぶりの再見ということになる。
銀行強盗の経緯など重要な場面を敢えて描写しない手法は、ロベール・ブレッソンと共通している。アキさんも影響を受けた監督の一人に挙げているようだ。脱獄の顛末などは、ブレッソンの「抵抗」に比べると、いかにもあっさりしているけれど。
アキさんの映画におけるマッティ・ペロンパーは、ちょうどリュック・ベッソンにとってのジャン・レノみたいな存在だったと思う。オフ・ビートな空気をかもし出す貴重なキャラクターだったのに44歳で早逝してしまった。合掌。
キャデラックの幌のくだりには爆笑。
虹の儚い美しさ
邦題の『真夜中の虹』というの、山田洋次かよ!と思うのだが、あながち間違っていない感興かもと思う。ある種の真面目というか実直さ故にアウトサイダーに置かれる人間の一瞬の救済。洋次感ある。/北欧から南米へ、緯度を正反対にしたとて苦労は見えているようなものだが、同じ苦労なら新天地へという気分は分かる。フィンランドでは追われる身であるし。/終盤、車の幌が閉まるところはよかったなあ。シリアスな場面でコミカルなことが起きるのが人生という感じもするし、あれがちゃんと“棺”になるのも区切り・別れ(父や同志、故郷との)の象徴という感じがした。
タイトルの意味は?
本人はどちらかと言うとお人好しなタイプなのかもしれないが、ちょっとしたきっかけで負のスパイラルに陥ってしまう。ただ、最後は希望通りメキシコに行けそうなシーンではあるが、仕事はどうするのだろうかとか、そもそも果たして国際手配で捕まったりしないだろうかと心配してしまう。
タイトルの意味は何だったのだろうか?
そう言う結論ね! 納得。 しかし、向かうは反対。 夕暮れに向かって...
そう言う結論ね!
納得。
しかし、向かうは反対。
夕暮れに向かって船は出ていく。果たして、彼らに未来はあるのだろうか?
【1980年代のフィンランドの経済成長から取り残された人達が生きる姿を、優しき視点で描いた作品。アキ・カウリスマキ監督の社会的弱者を温かい視点で描くスタイルは、今作でも継承されているのである。】
ー アキ・カウリスマキ監督の初期の”労働者3部作”「パラダイスの夕暮れ」に続く第二作。(第三作は「マッチ工場の少女」)-
■炭鉱の閉山で失業したカスリネンは、同じく炭坑で働いていた自殺した父のキャデラックに乗り、南を目指して旅をする。
しかし、旅の途中、強盗に全財産を奪われてしまい途方に暮れる。
そんな中、出会った女性イルメリとその息子と交流するうち、愛情を抱くようになり、フィンランドでの生活に見切りを付け新天地を目指して、密出国する。
◆感想
■”労働者3部作”を始めとしたアキ・カウリスマキ監督作品あるある。
・主人公の男性や女性及び周囲の人達は、フィンランド経済発展から取り残された貧困層である。
・ワンカットが非常に短い。
・台詞がシンプル。余計な事は喋らない。
・今作や、後年の「過去のない男」で描かれているように、主人公の男は暴漢から頭を殴られ、昏倒するシーンが多い。
・残虐なシーンは、殆ど描かれない。(今作でも、父のピストルでの自殺は音だけである。)
・主人公の男性や女性は、ほぼ無表情に見えるが、偶に微かに唇の端が上がったりする。
・イロイロ有っても、ラストはどこか貧しき主人公たちの希望を抱かせる終わり方が多い。そして、そこで流れる音楽が絶妙にマッチしている。
<とまあ、イロイロと書いて来たが今作は、ハードボイルドタッチでありながら、カスリネンとイルメリとその息子が希望の地であるはずの、メキシコに密出国するシーンで終わる。
アキ・カウリスマキ監督の社会的弱者を温かい視点で描くスタイルは、今作でも継承されているのである。>
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