幻の光のレビュー・感想・評価
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誘いの光
個人的傑作である『ワンダフルライフ』より前に是枝監督が撮った、長編デビュー作とのことで。
確かに現在に繋がる部分は見られるものの、まだ色々手探りだなぁ、とは感じた。
まず、全体として散文的に日常を切り取っており、物語として意味のあるカットは多くない。
それなのに、奥能登へ嫁ぐ際の駅のカットのように何も起きない長回しが散見される。
逆光によるシルエットの画もやたら多い。
そばかす、灯油、緑の自転車など、郁夫との生活を想起させる場面も沢山出るが、効果は薄め。
服の明度がゆみ子の心象を表していたと思うが、それもあからさま過ぎた。
演技も、子役をはじめ総じてレベルは高くない。
ただ、高齢者はみな芝居っぽくないドキュメンタリー的な自然さが出ていたと思う。
江角マキコは『ショムニ』のイメージが強かったので、いちゃいちゃシーンなんかは新鮮。
浅野忠信もこの頃は薄めのイケメンなのね。
柄本明は、食事のシーンでも一人縁側で煙草吸ってたりしたので、人には見えない妖精か何かかと。笑
正直ストーリーとして語ることはあまり無い。
郁夫が自死した理由も明かされないし、「光」の話だけで「良い陽気」になるというのもアッサリ過ぎる。
ただ何となく映像として説得力があるのは不思議だ。
引退や逝去によりもう見られない俳優が多く映っているだけでも観た価値はあった。
『怪物』のトンネルのシーンは、今作のセルフオマージュだったのかな。
グリーフワーク
こんな語彙があるとは大学受験の英単語の記憶をサボっていたツケが回ったし、結局バカ田大学しか入学できなかった自分の愚かしさを憂うばかりである
日本語には、"悲しみ"の度合いを表現するのに、通常はそのまま度合いをくっつける それ以外だと別のキーワードを探すことになる 英語もそうであり、だからこそ受験時の問われるキーワードが設問として効果的なのだろう・・・ということをもう何十年も経って気付く自分は、本当に愚かで、大学なんて行かなければ良かったと後悔しかない バカは大学には行ってはいけないのだ!
と、ひとくさりバカが、元に戻せない敗北の人生を今になって悔恨する時間を過ごしてのレビューである
是枝監督の劇場映画デビュー作ということで、偶々掛っていた映画館にて鑑賞
表題の通り、『大切な人と死別したとき、遺族は大きな悲しみを感じ、長期にわたって、ショック期、喪失期、閉じこもり期、再生期といった身体的・精神的な変化をたどる』とネットでは説明しているとおりの作劇である
原作は未読だが、作者の宮本輝の別作品といえば、有名な作品が2つ思い浮かぶ 『優駿』『青が散る』である 優駿はJRAが御輿を担ぎ上げたキャンペーンだったが、青が散るのほうが、自分としては思い出深い ドラマのTBSで放映していた作品だ しかしリアルタイムではなく再放送で視聴していた口である テーマ曲の"松田聖子「蒼いフォトグラフ」"は隠れた名曲だ 兎に角"死"が付きまとう、情緒を掻き毟られる作品である
そして、今作も又同じように最愛を亡くした女性が、その死に惹き込まれる様に、自ら淵を彷徨う喪失感を表現した作品である
近しい人間が、精一杯天寿を全うする事には納得感を得られる しかし説明がつかぬ突然の別離に対しては耐性が準備されていない それが、代え難い人で有ればある程である
幼少期に祖母を行方不明にさせた罪、そしてなんの訪れも感じぬ儘死に別れる夫 自死の罪深さはここに起因するのであろう 勿論、"最愛"という前提なので、そこまで思いがなければ直ぐに時間と環境が解決する話だ 自分の躯の一部とさえ感じている配偶者ならば、その喪失感は中々埋まらない 例え、残った子供の為に再婚をした男との情事のさえでもその喪失感は襲ってくる 人は愛する具現をセックスに帰着する と同時に喪失感を埋めるためにも同様の行為を行なう 今作がデビューの江角マキコの裸体が陰であまりみえなかったのが、それだけが今作の減点である
脱ぐことに躊躇した本人、及び事務所に苦言を呈したい 中途半端ならば俳優業をするなと・・・
時間と環境、そして雄大な自然がその蟠りを解してくれる そんな解決策の一つを提示してくれた作品、大変素晴らしかった
リアリティはある
が映画としてはインパクトに欠ける。是枝監督らしく、ドキュメンタリーのように物語は進み、出演者の演技も自然。冒頭、祖母が失踪するシーンがあるが、短いシーンのため、その後の人生にどれだけ影響を与えているのか、わからなかった。愛する夫・浅野忠信が自殺してしまう。数年後、一人息子を連れ、奥能登に住む内藤剛志と再婚する。夫や近所の人々も良くしてくれ、息子も馴染んでいる。弟の結婚式で帰郷した際に、亡くした夫を思い出す。ごく自然にある話。何で自殺したのか、自問するが答えは見つからず、内藤剛志に聞くと、海では漁師も不思議な光が見え、その光に誘われる気がすることがある、不思議な光が見えたのでは?と優しく答える。結局、この優しい答えに落ち着いたのだろうか。もっとこの後きっと何かあるだろうと見ていくが、結局何もなく、おさまって、一緒に暮らす。ちょっと期待外れでした。
奥能登が舞台
次々と愛する人を亡くしてしまったゆみ子(江角)が子連れで向かう奥能登。輪島の小さな村に住む民雄と再婚するのだ。
ゆみ子の息子・勇一と民雄(内藤)の娘・友子が仲良く輪島の自然を駆け巡る。ロケハンの天才!地元の者であっても、こんなに美しい風景は見たことがない。その後、淡々とした家族の映像が続くが、大阪に出て地元には戻ってこないと思っていた民雄の侘しさや、失意の中にあっても民雄を愛していこうと努力するゆみ子の姿が妙にリアル。
半年後、弟の結婚式のために尼崎へ里帰りしたゆみ子は再び前夫郁夫(浅野)を思い出す。輪島に戻ってからも悲しみが増大してくるのだ。折りしも漁師仲間の1人が戻ってこなかったことも相まって、自分の周りの人間がどうして死んでいくのか悲観的になったりする。
「夫郁夫の自殺の原因は何だったんだ」と悩む姿はちょっと危険な雰囲気。能登の寂しい海が不思議と美しい。「光に誘われたりするもんだ」という慰めの言葉はどれだけ効果のあるものかわからないが、ほんのちょっとした一瞬にも死に誘われることがあるのだろう。この作品を観て前向きに生きていこうと考えが変わるとも思えないが、優しく見守ってくれる人さえいれば何とかなるのかな
幼少の記憶。死にに行く。そう言い残し行ってしまった祖母の背中。自責...
幼少の記憶。死にに行く。そう言い残し行ってしまった祖母の背中。自責の念に囚われ、大人になっても夢にまで見るゆみこ。郁雄との幸せな生活も束の間、理由もわからずに郁雄は自死してしまう。
新しい夫との静かで優しい生活。その優しさでさえ癒えぬ傷。黒い服。遠景で映し出される能登の風景。ただ静かに季節は巡る。自死の理由を問うゆみこに「幻の光」に誘われたのかもしれないな。そう答える夫。その言葉は何を意味するのか。その答えは示されないまま、ただ静かな日々は続いてゆく。
答えはわからない。しかしわからないことに懊悩しながらそれでも生きていくということこそ、生きるということなのかもしれない。
男の性
男が死に近付こうとするのは、男の本能なのかもしれない。
DNAが男を誘うのだ。だから男はバイクに乗り、山に登り、戦場を目指して、死を慕う。
ふとした帰り道、男は理由なく彼岸に渡ってしまう。
この身に覚えのある心の揺らぎは僕だけのものではなかったんだな。納得させてもらったこの映画だった。
カニ取りの老婆は泳いででも生きて帰ろうとした。
かたや舅は、水平線に光を見つつ生きて戻ってきてしまったことに茫然としている。
これこそが男と女の断絶だ。
「自殺は残された者により多くの傷を残す」とその残酷さを知ってはいても、また3万人の年間自殺者がここまで減ってきてはいても、
本能の囁きに振り返る男は、一定数、決してなくならないのだろう。
"レミングの一斉入水"を自然の摂理と受け入れるなら、いくつか立ち合ってきた死をも、僕は静かに受容できるのかもしれない。
重たいが慰めを示してくれた作品だった。
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