幻の光のレビュー・感想・評価
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映画は映像で表現するという強烈な実践
尼崎の若い夫婦、何気ない日常の中、夫は突然自殺をしてしまう。妻に思い当たる理由もない。のこされた妻は幼い子供と能登に嫁ぐ。
能登の海岸沿いの一軒家と海沿いの街の風景が続く。全夫はなぜ死を選んだのか?ふと理由を知りたくなる。
ストーリーよりは映像の美しさで構成される展開。広角の構図を多用し、そこに映る人々も風景の中に溶け込んでいて、そこに包まれているような雰囲気。
ピントがぼやけたような映像が幻想のような雰囲気を与える。映画に必ずしも明快なストーリーも結論も必要ではなく、それよりも映像美で成り立つことを示唆してくれる映画。
幼少の記憶。死にに行く。そう言い残し行ってしまった祖母の背中。自責...
幼少の記憶。死にに行く。そう言い残し行ってしまった祖母の背中。自責の念に囚われ、大人になっても夢にまで見るゆみこ。郁雄との幸せな生活も束の間、理由もわからずに郁雄は自死してしまう。
新しい夫との静かで優しい生活。その優しさでさえ癒えぬ傷。黒い服。遠景で映し出される能登の風景。ただ静かに季節は巡る。自死の理由を問うゆみこに「幻の光」に誘われたのかもしれないな。そう答える夫。その言葉は何を意味するのか。その答えは示されないまま、ただ静かな日々は続いてゆく。
答えはわからない。しかしわからないことに懊悩しながらそれでも生きていくということこそ、生きるということなのかもしれない。
温もりの光
今や日本が世界に誇る是枝裕和監督の1995年のデビュー作。
幼い頃に突然祖母が失踪。
そんな暗い過去を持ちつつ成長したゆみ子は郁夫と出会い結婚、子供にも恵まれ幸せに暮らしていたが、突然夫が自殺。
2度も大切な人を失ったゆみ子は縁あり、能登の漁村に嫁いで行くが…。
一貫して家族を描く是枝作風は本作から垣間見える。
何気ない日常や営みを淡々と。
演者からも自然な演技を引き出す。(ちょいと何人か大阪弁が気になるが)
揃って縁側でスイカを食べるシーンなんて、後の是枝作品で見た気がする。
後の人気監督のデビューを祝うかのように、同じく本作がデビューの“元”女優の江角マキコ、内藤剛志、浅野忠信、柄本明、赤井英和、大杉漣とキャストも豪華。
是枝監督の才はすでにここから始まっていた。
近年の是枝作品は商業やエンタメ性があるが、本作は本当にインディーズの新人監督の意欲作。
何故、自分の前から大切な人は居なくなってしまうのか…?
何故、自分はそれを止める事が出来なかったのか…?
心機一転。新たな土地で再スタートさせた新たな人生。夫も優しく、人も良く、土地の雰囲気も和やか。
が、心の奥に未だに引っ掛かる暗い過去。
再婚相手からすればたまったもんじゃない。
でもそれは、いつまでも昔の夫を想い続けているのではなく、また大切な人を失ってしまったら…?
のどかではあるが、能登の寒々とした風景がヒロインの心情を反映。
暗く重く、なかなかに分かり難い作品でもある。
若き是枝監督が描いた、家族とその平凡な営み、死生観、喪失と再生の果てに、微かな温もりを見た。
幻の光?
自ら命を絶つものとそうでないものの差は歴然としていると思う。幻の光が見えるものと見えないものの差ってこと?ちょっと納得できない。是枝さんの劇場初作品ということだが、現在の誰が見てもやはり是枝カラーがふんだんに出た作品。江角マキコの関西弁には違和感。てか柄本明って今と見かけ、役柄変わってない!!当時は50前後?すごい!!
やはり日本映画
思った通り、日本映画ならではの暗い映画でした。
まぁ、でも、確かにある意味考えさせられたのでこんなもんかなという感じです。
随所に山田洋次監督の影響があるような気がしましたが・・・
結構胸に残ったのはやはり私も日本人だからかな。
死について論理があるわけではないという是枝監督の死生観が伺える本作...
死について論理があるわけではないという是枝監督の死生観が伺える本作。高台からの海のショットが長くそれは一見綺麗に見えるが薄暗い画面からのその水平線まで続く海の光景は死をも内包する非常に不気味なショットとも言えよう。
男の性
男が死に近付こうとするのは、男の本能なのかもしれない。
DNAが男を誘うのだ。だから男はバイクに乗り、山に登り、戦場を目指して、死を慕う。
ふとした帰り道、男は理由なく彼岸に渡ってしまう。
この身に覚えのある心の揺らぎは僕だけのものではなかったんだな。納得させてもらったこの映画だった。
カニ取りの老婆は泳いででも生きて帰ろうとした。
かたや舅は、水平線に光を見つつ生きて戻ってきてしまったことに茫然としている。
これこそが男と女の断絶だ。
「自殺は残された者により多くの傷を残す」とその残酷さを知ってはいても、また3万人の年間自殺者がここまで減ってきてはいても、
本能の囁きに振り返る男は、一定数、決してなくならないのだろう。
"レミングの一斉入水"を自然の摂理と受け入れるなら、いくつか立ち合ってきた死をも、僕は静かに受容できるのかもしれない。
重たいが慰めを示してくれた作品だった。
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