「松田優作の気迫がノったアクション映画」ブラック・レイン 永賀だいす樹さんの映画レビュー(感想・評価)
松田優作の気迫がノったアクション映画
この映画の何がすごいのって、主演のマイケル・ダグラスがちっとも主役っぽい感じられないこと。
なんかアタマの悪そうなNY市警の刑事(マイケル・ダグラス)が、異国の地・日本でアタマの悪さそのままに暴れまくって日本の警察から総スカン。現地パートナーについた日本の刑事(高倉健)ともけんか腰。挙句、一緒にNYからやってきた相棒(アンディ・ガルシア)を失ってしまう。
なんかダサい。ダサいぞ、マイキー。
一方の松田優作は、新興ヤクザの頭を凶悪に演じてスクリーンに気迫を投影した。
『探偵物語』や『遊戯』シリーズに見られるコミカルな要素はカットし、殺気に満ちた存在感を冒頭から披露、それまでのマイキーな流れを松田優作に持っていってしまった。
眼光に宿る狂気と指先まで張り詰めた緊張感、そして嫌味ったらしい仕草。観客もマイキーや健さんと一緒に憎悪の対象とするに十分。
また序盤からレストランでの殺人があるなど全編バイオレンスなイメージもあるけれど、シーンの一つ一つを追ってみればコードに引っかかるような残酷描写は皆無だと気づく。
肉体損壊のカットも数秒でスライドするかロングショットで逃げるし、銃撃による出血も控えめ。
血なまぐさいイメージは、松田優作がスクリーンいっぱいに見せる暴力性にあるのだろう。なるほど、本作における松田優作が強い印象を残すのも無理はない。
優作ファンならずとも役者・松田優作を褒めちぎってしまう本作は、臭ってくるほどリアルな映像も魅力の一つだと思う。
雨の張り込みシーンでは汗蒸した着衣の臭いが感じられたし、ラストの農家では日に焼けて乾燥した草と暑い夏の葉のにおいがした。
ロケでは日本以外も使われたようだが、そこに込められたのはまさに日本。道路を埋め尽くすチャリ通勤以外は、日本そのもの。”らしさ”が情緒も含めて映し出されている。
そんなだから、マイケル・ダグラス演じる刑事ニックも、少しずつ日本の文化や習慣に理解を示していく様子も説得力を持つ。
英語を使いながらも日本人のメンタリティを表現した高倉健という存在もしかり。1989年公開という時代背景を考えれば、かなり日本の近づいたアメリカ映画だ。
またバイクによるチェイスも見物。
特にラストは松田優作がスタントを使わずにこなしたという。
迫力が違いますな。
ついて回る松田優作という存在感ばかりが取り上げられがちな本作、実はちゃんと映画の骨子もしっかりしているから、今でも口の端に上る作品になっているのだろう。
では評価。
キャスティング:10(松田優作と高倉健、二人の日本人俳優が日本らしさを強く出した。ヤンキーの象徴たるマイケル・ダグラスも好対照)
ストーリー:7(日本警察の許容量を考えたら、ちょっとアレレな場面も少なからず)
映像・演出:10(臭いつく風景、松田優作が映し込んだヤクザの狂気)
黒い雨:3(劇中、「黒い雨」のいわれが出てくるが、ちょっと無理のある話)
チェイス:7(泥臭くも迫力あるバイクのチェイス)
というわけで総合評価は50満点中37点。
1989年公開と古い映画。若い人は名前こそ聞くものの観たことないのでは。
狂気に満ちた松田優作のヤクザは必見。オススメです。