劇場公開日 2021年11月5日

「【音楽の原点への旅】」ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5【音楽の原点への旅】

2021年11月26日
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この作品は、キューバの老ミュージシャンや人々へのインタビュー、そして、老ミュージシャンの演奏を見せながら、キューバ人のアイデンティティとは何かを見せているのだと思う。

この作品は、キューバの老ミュージシャンにスポットライトを再び当てることになったミュージシャンのライ・クーダーが、ヴィム・ヴェンダースの友人だったことがきっかけて撮影されることになる。

序盤に、今でも敬愛されているカストロや、チェ・ゲバラの写真が写されるが、キューバ人のアイデンティティは、力を誇示するような独立の逸話では決してないし、特定の民族や人種が拠り所とする宗教や神話、当然、民族や人種主義者の与太話でもないし、銃や軍隊の保持手もないことは明らかだ。

きっと、この国に住む人々が、貧しくとも支えあい、平等で穏やかに暮らし、そして、音楽とともにあるという極めてシンプルな事こそが、彼らのアイデンティティなのだ。

それを侵されることには単純に抵抗して闘うのだ。

だから、トランプは、この人たちをきっと恐れ、オバマが開いた対話の窓口を閉ざしたのだ。

でも、キューバの人々はとても率直だ。

カーネギーホールでのコンサートのために訪れたニューヨークで、老ミュージシャンのフェレールが、「ニューヨークはずっと憧れの地だった」と、「80歳を過ぎて、これから英語は勉強するよ」と話す。

彼らのアイデンティティは、イデオロギーとは異なるところにあるのだ。

近年、アイデンティティと称して、イデオロギーを振りかざす連中が散見されるが、この人たちの自由さは、本来の人の在り方ではないのか。

そして、こうした明るさや自由さは、あの悲しくも優しい、リズミカルなキューバ・ミュージック「ソン」の源泉なのだ。

老ミュージシャンとは云え、歌声も演奏も瑞々しく、太陽が輝くようだ。

彼らの多様性は、年齢も関係ないのだ。

最後に映されるいくつかの看板「この革命は永遠だ」、「カール・マルクス」。

この地だからこそ、ソ連共産主義や中国共産主義とは全く別物の、多様で平等な人々の間にカール・マルクスの本来の思想が根付いたのかもしれない。

「夢よ、いつまでも」

多様性が前提の公平な社会、人を選ばない音楽。

この二つは、然るべくして、この国でアイデンティティとなったのだ。

ワンコ