「面白かったー!」フルメタル・ジャケット ひがしのりさんの映画レビュー(感想・評価)
面白かったー!
「セッション」を映画館で鑑賞した後に自宅で観たので、鬼教官とデブの関係がフレッチャーとアンドリューに重なり、変な既視感を味わうことになった。直接的な暴力はもちろん、立場を利用した精神的な攻撃で若者の心の隙間を破壊する描写はとても痛々しく変な汗をかいてしまった。
キューブリック監督のカメラワークは最高にクールだ。手ブレなし、長回し、画面の奥の奥まで被写体を捉えた広角レンズの臨場感と情報量。そこに写し出された圧倒的な映像がジワリジワリと脳を刺激しアドレナリンを放出させる。本作でも狂気が渦巻くシーンですら映像は美しく、むしろ目の保養になるぐらいの視覚的心地よさを感じた。
背景の奥に溶け込んで動く人間が多いのもポイントで、主人公達が途方もなくスケールの大きな戦争のワンピースに過ぎず、ミラクル弾除けで勝利に導くありがちなアメリカン英雄列伝ではないと分かる。ベトナム市街地戦を描く後半の体感時間は長く、戦闘シーン以外でも、いつ誰が死んでもおかしくない緊張感が漂っているため神経がすり減った。
全ての演技が素晴らしいのだが、ピンポイントで気に入ったシーンがある。それは広報部に配属された主人公がお供のカメラマンとヘリコプターに乗り込み移動するシーンで、機関銃で女子供を撃ちまくるクレイジーな兵士とインタビュアーが交互に映し出される。乗り物酔いしたカメラマンが吐き気を催しているのが徐々に分かるのだが、吐きそうで吐かない、その演技がビックリするほど表情豊かでリアルなのだ。目をこすり何度も口を閉じ体勢を整える。口を開けるが何も出ない。平静を装いつつも徐々に瞬きの回数が増えていく。すげーリアル。重要なシーンではないため、登場人物の誰も彼に声をかけない。カメラもフォーカスしない。もしかしたら本当に役者が酔っていたのかもしれない。ただ、これを見てしまったら他のありとあらゆる映画の吐き気シーンが生ぬるく感じてしまうだろう。吐き気演技のアワードがあったらぶっち切りのベストアクトに選んであげたい!