「世界の残酷さ」フルメタル・ジャケット 古泉智浩さんの映画レビュー(感想・評価)
世界の残酷さ
カナザワ映画祭2014の爆音上映で見た。
ハートマン軍曹の号令が楽しい。ひどい罵声で、兵士の人格を改造するためのメソッドであると言われているけど、明らかにノリノリだ。そうじゃないとあんなに豊かなワードセンスになるわけがない。そんなひどい号令を爆音で見れて最高だった。ハートマン軍曹の掛け声はミニストリーの『Thieves』という曲でサンプリングされていることに気づいた。すごく好きな曲だったのにこれまで気づかなかった。
前に見た時は誰が誰だかさっぱり分からなくて、微笑みデブが頭を自分で吹っ飛ばすところと、敵の凄腕スナイパーが女だったことしか印象になかった。今回は役者に注目していたら、明確にジョーカーが主人公で彼を中心に描いていた。3回目くらいでやっと気づくとは非常に情けない事だ。彼は、ピースマークのバッチをつけるなど反骨精神のある男で上司にも楯突いてばかりいた。
冗談でも言わないとやっていられないのか、米兵がひどく悪趣味なジョークを連発しているところがかっこよかった。
微笑みデブはせっかく銃の腕前を認められそうになっていたところだったのに残念だった。
戦場場面は奥行きがすごくて、基地にジョーカーが配属されるさいにテントまで歩くとき、他の兵隊がなにか作業したり移動している様子がどこまでも広がっている感じがした。日本映画の時代劇では画角を狭くしてなるべく奥が見えないように努力していて、それはそれで頑張っているのだが、すごく差を見せつけられている感じがした。外国映画でもキューブリックだからこそというものでもあり、これぞ映画!という見ごたえがさりげなくある。
社会や世界は容赦なく残酷で理不尽極まりない現実がまかり通っている事をリアルにきちんと描いていて素晴らしい映画だった。