劇場公開日 1996年11月9日

「私たち夫婦は幸せね…」ファーゴ kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0私たち夫婦は幸せね…

2022年2月25日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

午前十時の映画祭11にて。
カンヌ国際映画祭では監督賞、米アカデミー賞では脚本賞と主演女優賞を得た、コーエン兄弟としては久々のヒット作だった。
当然、リアルタイムで観賞しているし、傑作だと記憶していた。
…なのに、ロードショー公開以来観ていなかったのか、内容を全く覚えていなかった自分にビックリ。サム・ライミの『シンプル・プラン』と完全に混同してしまっていたのだ。
(見終わる頃に思い出した!)

お粗末な計画が意外なトラブルから大事に発展していく。この種の成功作品はいくつかあるが、本作は登場人物のキャラクターが強烈なだけに、発生するイシューとその対処のアイディアの奇抜さは群を抜いていると思う。
ご承知だと思うが、オープニングのテロップ「…事実を忠実に再現…云々」こそがフェイクであり、コーエン兄弟による巧みな観客の心理操作だ。

自動車ディーラーの営業マネージャーであるジェリー(ウィリアム・H・メイシー)が、いかにも怪しい二人組カール(スティーブ・ブシェミ)とゲア(ピーター・ストーメア)に妻の誘拐を依頼するところから物語は始まる。その密会の場所がファーゴという町のバーなのだ。
ジェリー役のメイシーは、後にテレビシリーズ「シェイムレス 俺たちに恥はない」で主人公の飲んだくれ親父を怪演している。
カール役のブシェミは、本作の直前に『レザボア・ドッグス』でメンバーの一人ミスター・ピンクを演じていた。本作では目撃者たちに「変な顔の男」と繰り返し言われて、気の毒だ。

ジェリーの車がファーゴに向かって行くオープニングや、カールとゲアが誘拐したジェリーの妻ジーン(クリステン・ルドルード)を車に乗せて移動する場面では、雪の夜道に平然と車を走らせていて、最近の首都圏の雪による交通麻痺のニュースを思うと、何だか“凄いな”と感心してしまった。

ジェリーの目的は、勤め先の社長であり金持ちである義父ウェイド(ハーヴ・プレスネル)から彼の娘でもあるジーンの身代金をせしめることなのだが、投資話に乗って儲けようとウェイドに出資を持ちかけていて、この話が二転三転するところからジェリーの浅はかな計画は狂い始める。

カールとゲアの二人組は昔からのコンビというわけではないらしく、ゲアの行動にカールは振り回される。
ジェリーに彼らを斡旋したのは前科者の整備工で、自分に捜査の手が回ってきたことを知った整備工にカールは痛めつけられたりする。
ジェリーは、義父のウェイドが全く自分を信頼していないことを知って、8万ドルの予定だった身代金を100万ドルにつり上げる。カールは予想外に高額な身代金を独り占めしようとするが、悲惨な結果となる。
と、まぁ、いわゆるドタバタ劇なのだが、これを引き締める役回りが主人公の警察所長マージ(フランシス・マクドーマンド)で、登場順はわりと遅い。

マージは若くはないが、妊婦だ。
夫のノーム(ジョン・キャロル・リンチ)との関係が良いのか悪いのかが最初は分かりづらい。が、この夫は、就寝中に呼び出されたマージに朝食を作ったり、ランチの時間になると警察署にやって来ていっしょに食事をしたりする。一体何をしている人なのか分からないのだが、仲は良いらしいことが分かってくる。警察署内でもノームの存在は認知されていて、勤務中に二人でいることが受け入れられている。
この一風変わった夫婦が、この物語を面白おかしくし、観客に「幸せとは何か」を問いかけるのだ。
夫ノーム役のリンチは、『グラン・トリノ』でイーストウッドの友人の床屋”イタ公“を演じた役者だ。

身重のマージは署長なのに単独でパトカーに乗って捜査をする。回りの警官たちは彼女の状況分析力を頼りにしている。
このマージが鋭い洞察力で徐々にジェリーに迫っていくのだが、浅はかなジェリーは容易に尻尾を出してしまうのだから情けない。
カールの行動も常軌を失っていき、ゲアはモンスターぶりを発揮していく。
小さな想定外が、瞬く間にとんでもない事態へと膨らんで、笑えない惨劇に行き着く。
このブラックユーモアなサスペンスは、金をめぐる欲深い人間たちの愚かさを滑稽に描いている。
なんの落ち度もなく命を落とすジェリーの妻と、一人残されたジェリーの息子が憐れだ。

一件落着し、マージはノームと一緒にベッドに入る。
ノームは趣味(か、本職?)の絵を切手のデザイン公募に応募していたようで、3セント切手に採用されたとマージに報告し、「3セント切手なんて誰も使わない」と自嘲する。
マージは自慢だと喜ぶ。「郵便料金が値上げされれば、不足分を埋めるために皆3セント切手を使う」と。
そして、平和な夫婦であることの幸せを噛み締めるように肩を寄せあって眠りにつくのだ。

kazz
グレシャムの法則さんのコメント
2022年2月26日

kazzさん、町山さんの件残念でした。
あの辺は○○系の移民が多くて、間延びしたyeah(こういう綴りで合ってるのかな?)がまちののんびりした雰囲気を表している。その中での凶悪事件の珍しさ、マクドーマンドの名探偵振りが見事に対比的な効果を発揮…
みたいなことも言ってた気がします。
すみません、もう忘れかけていて○○の部分も自信なくて…
昨日見た映画の『群を抜いてヘタ』とこちらの『変な顔』がなぜかダブって印象的です。まったく関係ないのに…。

グレシャムの法則
NOBUさんのコメント
2022年2月25日

今晩は
 今作、今映画館で上映されているのですか!
 と調べたら、あ、上映している!けれど、高速を使わないと行けない・・。
 今週観る映画は全部、予約しちゃたしなあ・・。
 コーエン兄弟の作品、最近出ませんね・・。一番最後に観たのは”N”の「バスターのバラード」でしたね。面白かったです。
 新作、期待して待ちますよ。では、又。

NOBU
talismanさんのコメント
2022年2月25日

kazzさん、コメントありがとうございます。切手の話、本当に好きです。町山さん解説ないversionあるんですね。私はラッキーだったのかな。とにかく彼はこの映画好きみたいでニコニコと解説してくれていて楽しかったです。彼も切手のこと言ってました!kazzさんも私も町山さんも一緒!

talisman
kossyさんのコメント
2022年2月25日

たった今、アマプラで久しぶりに見ました!
やっぱり思い出す思い出す(笑)
この映画の奥深さで結構色々推測がなされてますけど、マイク・ヤナギタという人物が妄想癖で嘘つきということがこの映画がフィクションであることを裏付けている・・・とかいうウンチク。
『トレジャーハンター・クミコ』という映画もこの『ファーゴ』から派生した作品で、こちらの州境に埋められた92万ドルの鞄を探して凍死したとか・・・凄い波及効果ですね。

kossy
talismanさんのコメント
2022年2月25日

切手の会話、いいですよね。

talisman