「サイコスリラー映画の金字塔」羊たちの沈黙 といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
サイコスリラー映画の金字塔
映画をあまり見ない人でも、名前くらいは聞いたことがあるであろう不朽の名作映画。本作に登場する伝説的な悪役であるハンニバル・レクターは、後の作品に登場する悪役キャラの造形に多大な影響を与えたエポックメイキングなキャラクターです。私が過去に鑑賞した作品で言えば、『死刑にいたる病』で阿部サダヲさんが演じた榛村という死刑囚が、分かりやすくレクター博士をオマージュしたキャラクターでしたね。
これ本当に面白い作品でした。公開から30年以上経過した今でも名作として語り継がれるだけの魅力が詰まった作品だったと思います。魅力的な登場人物・先の読めない展開・ラストに残る何とも言えない余韻がたまらない作品でした。ただ、これは後世に残る名作の宿命なのですが、色んなところでオマージュやパロディが作られている作品ゆえに、先の展開が読めてしまったり新鮮さがあまり感じられないなどの欠点もありました。
後世の映画に多大な影響を与えた超名作映画です。映画好きであれば間違いなく観るべき作品だったと思います。
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FBIアカデミーの優等生であるクラリス(ジョディ・フォスター)は、その優秀さを見込まれ、とある連続猟奇殺人事件の捜査に加わることとなった。猟奇殺人犯の行動を知るために、精神科医でありながら何人もの患者を死に至らしめたハンニバル・レクター博士(アンソニー・ホプキンス)に会いに行く。
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この映画の魅力の大部分は、アンソニー・ホプキンス演じるハンニバル・レクターという猟期殺人犯の魅力が占めていると言っても過言ではないと思います。初登場シーンから印象的で、収容所の奥深くの鉄格子の並ぶ監獄で、一人だけ強化ガラスに覆われた収容室にいる。猟期殺人犯に似つかわしくない彼の紳士的な立ち振る舞い、言葉の端々から滲み出てくる知性、そして言葉では形容できない底知れぬ恐ろしさ。最初の登場シーンから既に、主人公のクラリスの心と観客の心を掴む魅力的なキャラクターです。
クラリスとレクター博士が監獄で最初に対面したシーンには有名な逸話があります。レクター博士がその類稀なる観察眼でクラリスのパーソナリティを次々言い当てていたシーンがありましたが、その中には台本に無いアンソニー・ホプキンスのアドリブが含まれていたそうです。それはアンソニー・ホプキンスが事前に調べ上げていた、クラリス役のジョディ・フォスターの個人情報でした。アドリブで突然自分の出身地や父親の職業を言い当てられたジョディ・フォスターは本気で恐怖を感じたそうです。レクター博士に次々と自分の生い立ちやパーソナリティを言い当てられて恐怖を感じるクラリスのあの表情は、アンソニー・ホプキンスに自分の生い立ちやパーソナリティを言い当てられて恐怖するジョディ・フォスターの表情でもあったということですね。
惜しむらくは、この映画は名作であるがゆえに弱点があります。
後追いの様々な作品に本作のオマージュやリスペクトが散りばめられ、ジェネリックレクター博士が昨今の作品には多く登場します。それ故に、当時は画期的で新鮮味のあったレクター博士が、現代では「どこかで見たような天才」に映ってしまうことです。もちろん有象無象のジェネリックレクター博士よりも、アンソニー・ホプキンス演じるレクター博士が本能に訴えかけるような恐ろしさが醸し出されていて素晴らしいんですが、それでも新鮮味は薄れてしまいます。
また、終盤にクラリスがバッファロー・ビルの家に潜入する場面も不満点があります。バッファロー・ビルが誘拐した女性を監禁している地下室にクラリスが潜入してビルを探すシーンが、やたらと冗長に長ったらしいんです。クラリスが銃を構えておっかなびっくり薄暗い地下室でビルを探すシーンだけが5分以上続きます。それまでは魅力的なキャラクターによる巧みな会話劇が繰り広げていたのに、あのシーンだけ安っぽいサスペンスドラマを見せられているみたいで退屈に感じました。
多少の不満点はありますが、間違いなく面白い作品でした。後々の作品に多大な影響を与えた本作は、観ておいて損はない作品だと思います。オススメです!
