「手練れによる珠玉のロードムービー」パリ、テキサス ameichiさんの映画レビュー(感想・評価)
手練れによる珠玉のロードムービー
初めて見たのは10代の頃。
映画学校に通っていた自分は
心象風景の表現にロングショットをどう使うのか?など
技術的な側面で勉強のために見た映画でした。
何十年か経って、世間的にも妻子がいて当たり前となる年齢となり、
改めて視聴する機会があって、今回のレビューとなります。
我ながら歳を取って多少は大人になったと思っていましたが、
弟・ウォルトの献身、弟嫁・アンが寄せる息子・ハンターへの愛情、
ハンターの無垢と、若かったからと思っていたら、
ハンターを想い毎月欠かさず仕送りをしていた元嫁・ジェーン。
それぞれがあまりにも美しすぎて、あまりにも「まとも」過ぎて。心が痛みました。
率先して食器を洗ったり、みんなの靴を磨いてみたり。
理解されないながらも、
家族、父親としての自分の在り方を果たそうとするトラヴィスですが、
不器用が故、彼はまたもや弟夫婦を裏切るような行動を取ってしまいます。
ジェーンを見つけ出したものの、その日は声をかけられないトラヴィス。
「穢れ」を確認するも、それもなく。
飲んだくれたうえ、息子の助けを借りながら自分の過ちを再確認することになります。
母親を助けてあげたかったけどそれができなかった、
父と同じ「トラヴィス」という名の自分。
そして将来、家族と過ごすために父の妄想と同じ「パリ」という土地を買った自分。
ロードムービーなので劇的な事件が起きるわけではなく
映画序盤と同じく黙って他人を拒絶していれば起こることもなかった感情、
喜怒哀楽がただただ2時間、トラヴィスを通して流れ込んできます。
人により解釈は違うのでしょうが、
最後はジェーンやハンターと一緒に暮らせないと判断したトラヴィス。
それはなぜだったのか、、、?
勧善懲悪の娯楽映画も好きですが、
「映画ってこういうもんだったよな」と久しぶりに感じる体験でした。
ストレス発散には向かないと思いますが、
気の合う誰かと一緒に見れば3時間ほど人生についてあーだこーだとお酒を飲める。
手練れによる珠玉のロードムービーです。
