劇場公開日 2025年1月3日

「男と女、ままならない愛の果て」パリ、テキサス TSさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0男と女、ままならない愛の果て

2025年2月8日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

知的

フランスのパリではなく、アメリカのテキサスのパリ。
荒野を彷徨い倒れた男が、元妻を探して旅に出る・・・。
ヴィム・ヴェンダースが撮ったロードムービーの名作・・・。

映画をジャンルで分類するなら、確かにこれはロードムービーだ。
大人と子供。男同士。果てしなく続く道路。車中で語り合い、ときに疲れて眠り、ときに荒れて酒を飲む。分かれ道。来た道を一旦引き返す。どこかで観たような画がでてくる。

しかし、どうやら、この旅路の果てにハッピーエンドは用意されていないらしい。8ミリフィルムの家族達をみて、そう確信した。
彼らにとって、幸せの頂点は、この8ミリ映画を撮ったときだったのだろう。もうそこには戻れない彼らがいた。

トラヴィスが彷徨い続けた闇から出て正気を取り戻し、ハンターと親子の絆を取り戻していく過程が淡々と描かれていく。道路の両側を歩調を合わせて歩く親子の姿は、微笑ましいシーンだ。
しかし、トラヴィスの心の闇はなかなか明かされない。彼は何を抱え、何を考えているのか。それは、「覗き小屋」という意外な仕掛けの中で一気に明らかにされた。

板で区切られた閉鎖的な小部屋の中で、1枚のマジックミラーを隔て、電話で会話する。今までの開放的な空間とは真逆の空間の中で語られる2人の過去。
この場面設定には、痺れた。お互いが心の内を語り合うのに、触れあうことはない。この空間は彼らのために用意された空間のようにすら思えた。

愛情というのは、やっかいなものだ。
相手にわかって欲しいと思ってもわかってもらえない。わかってもらえないと徐々に歪んでいく。一旦歪んでズレていった愛情はもう元には戻らない。

ハンターはどうなるのだろう。実の父と母に再会できた彼は幸せになるのだろうか。

赤いセーターのナスターシャ・キンスキーがとびきり美しい。まるで彼女は幻のよう。
ままならない愛は、ままならないまま終わり、男はまたどこかへ消える。
ライ・クーダーのギターのせいだろう。湿っぽさはない。
今も何処かにこんな男と女がいる。ただ、その想いだけが心に残った。

TS
トミーさんのコメント
2025年2月9日

共感ありがとうございます。
映画の色味、人間模様、一つの完成形の様な作品ですね。
昨年観た中では一番、前に観たのが泣き叫ぶ石原さとみだったのも大きいですがね。

トミー