「単なる戦争映画ではなくある種の普遍性がある物語」パットン大戦車軍団 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
単なる戦争映画ではなくある種の普遍性がある物語
戦争映画はやはり戦闘シーンが華
となると実戦部隊の物語となり、主人公はその指揮官クラスの将校というパターンが多い
あるいは大作戦において名のある将軍たち、指揮官達がどのように働いたのかを描くパターンだ
しかし、本作は陸軍大将が主人公となるから、その後者のパターンであるはずなのだがそうではない
実は前者であるという珍しいパターンなのだ
だから普通の戦争映画とは毛色の違う内容となる
軍隊だけでなく、会社でも役所でも大きな組織の中枢、それもその将軍に相当するような指揮官の側で働いた経験のある者なら、正にあるあるシーンの連続だろう
軍隊、民間企業、役所
組織は違えども数万に及ぶ人間の集団を預り、その目標の達成責任を負い、日夜孤独に苦闘する将軍
彼もまた、最高司令官と実働部隊との狭間で苦闘する中間管理職なのだ
しかし、彼は将軍だ
一軍を率いてある程度のフリーハンドの自由はある
現場の人間からみれば仰ぎ見るような存在であり、彼の一存で部下の運命はどうとでもなるのだ
一兵卒などは本当に彼の虫の居どころ次第だ
彼は数万の部下を率いて戦う
しかし将軍だから人を使い組織を使って司令部のスタッフを手足にして戦うのだ
敵はもちろん敵軍である
しかし、上級司令部、最高司令官、他の将軍
そして部下とも戦わねばならないのだ
パットン、ブラッドリー、モントゴメリーの三者三様の将軍のスタイルを本作は描く
史実に基づくものなのだが、そのような高位の将軍クラスに就く人物の有りがちなパターンが良く表現されている
あなたもこの三人の誰かの下に居たことはないだろうか
本作はパットン将軍が各戦線を転戦しながら、圧倒的な功績を挙げながら、性格的な問題から上級司令部や最高司令官との軋轢を起こし左遷されて行く物語だ
あなたの知る関連会社の社長、支社長、事業本部長、部門長、局長…の誰々さんの名前が浮かんでは来ないだろうか?
史実に基づく伝記映画でありながら、このように普遍性のある物語に仕立てあげたフランシス・コッポラの脚本の力は素晴らしく見事だ
冒頭の巨大な星条旗の前に立ち短い訓示を述べるシーンだけで、彼がどのような人物で、どのような指揮スタイルであるのかが理解できる見事としか言い様のない導入部がいきなりそれを証明する
かといって戦闘シーンがおざなりかというと全くそんな事はない、クライマックスのバルジの戦いのシーンなどは、本家「バルジ大作戦」より出来が良い位だ
軍事マニアも納得するはず
そして、そうでなくてもそのような高位の指揮官はどのような重圧と強烈なストレスにさらされ、孤独に戦っているのか、その部下達は彼とどう付き合って、組織の目標を達成しようと苦闘しているのか
そのような物語として3時間という長時間を飽きずに集中して楽しんで観ることができるだろう