「再編集による映像は極めて鮮明」ハメット 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
再編集による映像は極めて鮮明
1920年代の禁酒法下、アヘンの巣窟や売春宿に人が群れるサンフランシスコのチャイナタウンの一郭をセットに組んで、カラーで撮影されたフィルム・ノワール(というよりも)ハードボイルド。私は(前評判とは異なって)楽しんだ。冒頭からクラリネット(サックスではない)とピアノによるジャズに心を奪われたが、これは間違いなく聴きもの。
ストーリーの上では、階段、奥まった部屋や鏡の裏などが場面の転換に使われ、コッポラの関与が大きいと思われた。彼が、製作総指揮として、すべてのプロセスに口を出していたのではと窺われる。一方、映像そのものには、ガラスの天井を通して仰角の視点が頻用されるなど、監督を務めたヴェンダースの主張があったことが判る。それだけ統一感は弱かったのかも。ストーリーと映像の対立か。
東洋人から見ると、警察関係者も含め西洋人の顔は見分けにくく、服装も似通っており、しかも身代わりの出現もあり、登場人物が区別しにくいので、退屈だったのでは。
私の印象に残ったのは、探偵事務所を辞めて作家として独立したばかりの主人公ハメット(フレデリック・フォレスト)、階下に住む女友達キット・コンガー(マリル・ヘナー)、昔の仲間で、今は専属みたいにタクシー運転手を務めるイーライ(エリシャ・クック・Jr:キャラクターは一番魅力的)。この3人に絞った筋立てだったらと思うが、ハードボイルドは難しくなるだろう。再編集による映像は極めて鮮明で、スクリーンに足を運ぶ意義は十分にあると思われた。
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