「今日は原子爆弾が落ちた日」八月の狂詩曲(ラプソディー) shosho5656さんの映画レビュー(感想・評価)
今日は原子爆弾が落ちた日
この映画は戦争を伝えるメッセージとしては陳腐である。
新しい知見が得られるかというと疑問である。
思想的にはフラットな描写だと思うので、入門編で子供に見せたらどうか。
しかし、作品としての凄みは偏ってはいるが「はだしのゲン」の方に軍配が上がるだろうが。
原爆の傷跡は未だ残っていてそれでも我々日本人はアメリカ人の言いなりとして生きていかねばならない。それを戦前から生きている世代は苦々しく思うけれど、戦後生まれはアメリカ贔屓だったり、関心が無かったりする。そのギャップをおおよそ3世代に渡って対照的に描いている、しかも祖母の家に帰省するという形で上手に。
最初はアメリカ側家族からの純粋なオファーがくる。随分昔に生き別れたが、ハワイで成功した祖母の兄が余命幾ばくもない。死ぬ前に一目妹に会いたいのだという。当然、その兄以下は現地で作った家族なのでアメリカ人、兄自身も帰化している。
つまりはアメリカ側からの純粋な好意を持って始まる。
祖母は夫を原爆で無くしており、アメリカにいい感情は無いため、渋る。
子供達は戦争について知らず、旅行に行けるという無邪気にはしゃぐ。
その後、祖母の苦悩を知り、戦争の傷跡を知り、子供達の視点は変わる。
しかし子供達の親世代は、大成功した親戚がいると浮かれ始める。
純粋に子供達は大人の打算に疑問を呈し、その対照的な様が面白い。
過去は過去と祖母は次第に、生き別れの兄に会う決意を固めていく。
これが祖母とその兄が実際に兄弟であったという様々な証言を集めて行く過程で象徴されていると思う。
ここで大きな作品中の事件が起こる。祖母が「夫の命日が終わったら会いに行く」という手紙をハワイに送らせたことである。
打算的な親戚は、皆向こうの心情を害したのでは無いかと恐れ、あろうことか実際に手紙をしたため出した子供達を責める。その浅ましさに祖母は怒り、心を硬直させる。そんな中リチャードギア扮する、兄の息子に当たる人物が来日し、祖母の元へと会いにくる。真摯な態度で臨み、祖母の中のわだかまりは溶けて行く。
が、しかし悪いタイミングで訃報が届く。
兄の死だ。
祖母は大変後悔し、その日から認知症が進んでしまう。原爆の空模様の雨の日、勘違いして一人飛び出してしまう。
魅せ方などは上手いし分かりやすいと思ったが話のテーマにもう少し、ドラマとしての深みが欲しかった。素材というか戦争自体の重みにかまけてその辺の匙加減が薄いように思えるのは、好みの問題なのだろうか。