「刑事と犯人、二人を分けたのはなんだったのか?」野良犬 neonrgさんの映画レビュー(感想・評価)
刑事と犯人、二人を分けたのはなんだったのか?
物語の発端は、若き刑事(演:三船敏郎)がバスの中で拳銃をすられるところから始まる。その拳銃は殺人事件に使われ、刑事の内面には激しい自責の念と焦燥が渦巻く。相棒となるのはベテラン刑事(演:志村喬)。冷静で穏やかな彼との対比によって、未熟な若者の情熱と、年長者の経験が火花を散らす構造となっている。
若くて情熱的な三船敏郎と、老練で経験豊富な志村喬。彼らの関係には、戦前と戦後の価値観の違いが象徴されている。志村のキャラクターは「悪い奴は悪い」と断言する絶対主義的な立場に立ち、一方で三船は、「人間は環境によって変わる」と考える相対主義の立場。世代間の思想の断絶と、そこに流れる痛みのようなものが随所に表れている。
犯人と刑事の対決のラストシーンは、汚れた泥の中で繰り広げられる生身の肉弾戦。前作の『静かなる決闘』では主人公の内面の葛藤が描かれていたが、本作では対立する二人の外面的な戦いとして描かれている。彼らは鏡のように似ている。ほんの少しの違いで、こちらがあちらになり得る。その恐ろしさと不安が、観る者の胸に迫ってくる。
全編に汗と埃が匂い立つような生々しさがあり、若き三船の感情の爆発と、志村の熟練の落ち着きの対比が実に鮮やかだ。三船の「らしさ」が芽吹いた作品でもある。そしてこの作品は、後の『天国と地獄』にも通じる、犯人と刑事という対立構造を越えた人間ドラマの原点でもある。
『野良犬』は、斬新なカメラワーク、動きのある絵、人物の重ね合わせなど魅せる黒澤明が始まった初期代表作だ!
4K UHD Blu-rayで鑑賞
92点
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