「【”アプレゲール犯罪。世の中に悪はない、悪いのは環境だ。”今作は戦後混乱期の日本で拳銃を掏られた刑事がベテラン刑事と共に、その拳銃を使い犯罪を起こす犯人を追ういぶし銀の如きサスペンスなのである。】」野良犬 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”アプレゲール犯罪。世の中に悪はない、悪いのは環境だ。”今作は戦後混乱期の日本で拳銃を掏られた刑事がベテラン刑事と共に、その拳銃を使い犯罪を起こす犯人を追ういぶし銀の如きサスペンスなのである。】
■新米の村上刑事(三船敏郎)は満員のバスの中で実弾が残った拳銃を掏られてしまう。
掏り係の老刑事である市川のアドバイスを受けた村上は、手掛かりを掴み、掏りの女に張り付、拳銃の行く先を類推させる証言を取る。
だが、彼の拳銃を使った強盗事件が発生する。二件目では罪のない主婦が射殺されてしまう。窮地に追い込まれた村上は、ベテランの佐藤刑事(志村喬)と共に犯人を追い続ける。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・渋い映画である。アクションシーンは最終盤の村上刑事と犯人、遊佐(木村功)とが対峙するシーンのみである。
遊佐の凶行も、その現場が描かれるわけではなく、被害状況が間接的に描かれるだけで、被害者の姿も映されない。斬新な手法である。
・村上刑事を演じる三船敏郎も、後年の様な荒々しさはなく、拳銃を掏られた責任感に苛まれる余り、憔悴して行く様を抑制したトーンで演じている。
■村上刑事が、犯人を知る踊り子並木ハルミ(淡路恵子)が”あの人は、復員時にリュックを盗まれたのよ。”と言った時に、村上が”僕も盗まれたんだ。”と答えるシーンでのハルミのハッとした顔。
つまりは、今作では人の心持により、村上のようにリュックを盗まれても刑事になる人間もいるし、遊佐のように”野良犬”の様に成る人間もいるという、戦後の”アプレゲール犯罪”が起きた要因を、淡々とだが、サスペンスフルに描いているのである。
それは、村上刑事がベテランの佐藤刑事宅に招かれ、話すシーンでも描かれている。村上刑事が”世の中に悪はない、悪いのは環境だ。”と言うのに対し、佐藤刑事は”そういう考えは、私には分からない。悪は悪だ。”と言う言葉に、戦前、戦後の人間の考えの違いが示されているのである。
・追い詰めた佐藤刑事が、遊佐の凶弾に倒れるも(このシーンも、音声と撃たれた佐藤が倒れている姿だけである。)村上がそこから遊佐を追い詰めていくシーンも、淡々としかしスリリングに描かれているのである。
駅の待合室にいる大勢の男性達から、遊佐を突き止める村上が脳内で犯人を突き止めて行くモノローグの使い方が上手い。
■そして、二人は森の中で対峙し、村上は遊佐の銃弾を腕に受けるも、彼を組み臥すのである。このシーンでも草叢に倒れる二人の傍を、幼稚園児たちが“蝶々”を明るく歌う声が流れる中、遊佐は身体を折り曲げて、深く慟哭するのである。
その対比は、戦後、新しい世界を生き始めている幼き子供達と、戦争の傷を自らでは拭えずに野良犬になってしまった哀しき男の惨めな姿を示しているのである。
更に、村上は、佐藤を見舞うシーンで表彰を受けた事が、台詞から示される。彼は、遊佐と同じ経験をしながら、彼とは異なり、立派に戦後の日本を守る刑事となった事がその台詞から分かるのである。
<今作は、戦後混乱期の日本で拳銃を掏られた刑事がベテラン刑事と共に、その拳銃を使い犯罪を起こす犯人を追ういぶし銀の如き作品であり、且つ”光クラブ事件”に代表される哀しき”アプレゲール犯罪”を描いたサスペンスなのである。>
いつもながらNOBUさんのレビュー、お見事です。
雨後の泥ハネが上手く使われていましたね。
ちなみに、誰も書いていないと思いますが、ラストの三船敏郎と木村功が対峙するシーンの編集は「スターウオーズ/帝国の逆襲」のラストでコピーされています。私はVHSビデオテープで何回も再生して確認しました。黒澤のコピーはルーカスの趣味かな。