天国と地獄のレビュー・感想・評価
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重層なる物語
かの有名な列車のシーン、煙突のシーン。いろいろなところで絶賛のコメントを聞き、読む。ここまで絶賛されると期待値が高まってがっかりするのではなんて言う思いは杞憂であった。
否、有名な場面以外にも名場面の目白押し。
たんなるサスペンスではない。
①誘拐事件、その顛末を追うだけではなく、権藤がどういう選択をするのか、ハラハラさせる。そして、”その”選択をした権藤を巡る人間模様。けっしてお涙頂戴の展開だけでなく、現実的な成り行き、ヒューマニズムを前面に押し出す展開、そのはざまで動く、権藤・権藤の妻・青木が人としての心情をついてくれる。
②誘拐ものの見どころ身代金受け渡しのテンポ。余計な場面を挟まない。今とは違う特急のシステムに目を見張らされるとともに、手に汗握らされる。
③そんな事件の進行の裏側で積み重ねられる捜査。群像劇のようでいて、各メンバーの動きがフーガのように、ハーモニーを奏で、一つの糸に紡ぎだされていく様が見事。
正直、それは個人の主観が入りすぎだろとつっこみを入れたいところはあるが、犯人を許すまじという気持ちにすっとまとまって、力が入ってしまう。
④そして、やっと姿を見せる犯人。満を持しての登場。胸が否が応でも高鳴っていく。その犯人を追い詰めていく様が見せ場。
起承転結という話の流れでいえば、①起・③承・②転・④結と持っていきたいところだと素人の私は考えてしまうが、監督はあえて動きのある②と、地道な③を逆転して見せる。筋の流れからすれば、確かに、①②と動きの取れない警察の反撃が始まる場面ではあるが、あえて地道に描き出す。その流れがあるから④の息詰まる、先の読めない展開から目が離せなくなるのであろう。
前述の名場面が、このストーリーの緩急のリズムの中で現れる。つい「おお!」と絶叫したくなる。
でも、それだけではない。
①での、権藤達と刑事たちの立ち位置のシルエット。絵画を見ているようだ。
③で見上げる権藤邸。天上の館のようだ。権藤邸からの街の眺めが、憶ションのようで、原題のバブルと重ね合わせてしまう。せせこましい場所、薄汚い公衆電話との対比がなんともいえない。
④で、犯人がさ迷い歩く場所。どこかメフィストフェレスに誘われて、地獄めぐりをしている気分になる。菅井さんがドアップで一瞬映るが、それだけなのに、忘れられないショットになる。そのような、アップと群衆の絵の巧みさ。目が離せない。
そして役者たち。黒澤組常連と言われる方々のみならず、この人って大滝さん?北村さん?黄門様だ!のような、名優たちがそこかしこに出演されていて、その点でもテンションがあがる。
志村氏が一言も発しないのに、その場を仕切っているさまに笑みをもらしてしまう(笑う場面ではないのに)。
主役も、はじめは権藤演じる三船氏がアクの強い面をまき散らし、私の中では枠の強い俳優の位置づけの仲代氏が捜査指揮をとる刑事(戸倉)役でありながら、スルーされそうなほど、普通の人を演じる。そのバランスが、犯人・権藤夫妻・青木のやり取りに緊迫感を与える。
なのに、③④の場面になると、毒気が落ちたように”いい人”のイメージになる権藤に比べ、戸倉のアクがジワリと・ジワリとにじみ出てくる。それが元々アクの強い役者たちを使った刑事たちへと広がっていく。
そして、山崎氏。最初の自分の才能に酔っている声だけの演技。途中の…(ネタバレになるので割愛)。ラストの強がりの演技。絶品。
これだけ巧みなストーリーテーリング、演出だが、他のレビュアーの方も指摘するように、犯人の動機に今一つ理解が及ばない。〇〇は殺して、〇〇は殺さない?人の生死を自分が決定する”神”になったつもりというのを描こうとしたのか?
結局、主要人物たちは本当に自分がやりたいことに落ち着く。自分が夢に描いていた姿を叶えた者。描いたものとは全く違う結果になった者、様々ではあるが。
後半の展開に見応えあり
十数年前に見た時は新幹線開業前の「特急こだま号」を利用した身代金受渡しのシークエンスまでが強烈な印象で その後は肩すかしを食らった印象があったのですが、時間の経過を経て再見すると 犯人像が明確になってからの後半50分の展開こそがスリリングで抜群に面白いと感じました。
高度成長期における日本のダークサイドを徹底的に暴いてみせる作品であり、特に横浜繁華街やスラムのシーンは現代ならば炎上必至の描写かも。50数年前も今と同じように東京オリンピックに向け日本のイメージアップ作戦真っ只中だったはずですが、よくここまで突き放して冷徹に描けたなー とビックリです。 さすが黒澤、当時を代表する演劇人が総動員されており、三船仲代山崎努はもちろん ちょっとしか映らない脇の俳優たちに至るまで アンサンブル演技の素晴らしさに圧倒されました。 戦後 日本中にはびこった薬物依存患者に目を背けず描いている点でも注目に値します。
誘拐事件の現金受け渡しと犯人を追い詰めるスリルある展開。
単純に面白かった。143分もあるが、その長さを感じさせない。大きく二部構成になっており、一部は誘拐からの身代金の受け渡しでの犯人との攻防をスピード感たっぷりに描く。まず、会社を乗っ取るために必要なお金を身代金として渡さなくてはならなくなる権藤(三船敏郎)と運転手青木とのやり取りが面白すぎる。権藤の右腕として長年働いてきた者の裏切りなど、ただの誘拐事件だけではなく、そこに関わる人物達のそれぞれの状況がそのキャラクターも相まって、話を飽きさせなくしている。
そうとにかく飽きないのだ。脚本が秀逸。次から次へと起こる出来事に登場人物達がそれぞれの思惑で動く姿が実に面白い。
白黒映画だが1シーンだけ色がついている演出があるのだが、当時どのようにやったのだろう。知りたいところ。
惜しいなと思ってしまったところは犯人の動機。もっと深い怨恨みたいなのを想像していたため、ただの嫉妬だったのか、、、とガクッとなってしまった。ま、人を恨む動機なんて人それぞれだから良いのだけど、その動機が薄いためか地獄のインパクトが減ってしまったかなと言った感じ。
スピード感のある展開で一気に話が進んでいき、文句無しに面白い。犯行...
スピード感のある展開で一気に話が進んでいき、文句無しに面白い。犯行の動機は些細とも思えるが妙に説得力がある。まさに天国と地獄なのだろう。端役の刑事達が後の時代に活躍する俳優達なので今見ると豪華キャストとなっているのも一興。
天国も地獄
DVDで2回目の鑑賞。
原作(キングの身代金)は未読(※現在は読了済み)。
それぞれの思惑と倫理観が交錯する権藤邸での議論が中心の前半から、警察が誘拐犯を追い詰める後半へ、緊迫感を維持しながらノンストップで駆け抜けていく演出が凄まじい。
特急「こだま」でのあっと驚く身代金受け渡しやパートカラーのインパクトなど、印象的な場面が目白押しである。
横浜のスラム街の路地裏は、戦後の混乱が生み出したカオスの吹き溜りのようで、当時の様子を知る貴重な映像だった。
夏真っ盛りのある日。クーラーなど無いぼろアパートの自室から見上げる、世間を睥睨するかの如く佇む丘の上の豪邸。
そこに住む者たちの暮らしを想像するにつれ、犯人からすれば自分の住む場所はさながら地獄に思えたことであろう。
募る羨望と嫉妬の末、聡明な頭脳は天国に住む者たちを苦しめ、虚栄心を満足させんがための犯罪計画を練るに至った。
しかし、そんな天国に住む者たちが幸せなのかと言えば、決してそうとばかりは言えそうに無いのが実際のところだ。
パワーゲームに勤しみ、権謀術数の網を掻い潜り、殺伐とした空気の中を突き進むような、欲にまみれたものだった。
それは果たして天国と言えるのか。豪奢な屋敷も単に見栄っ張りの象徴のようで、中身の伴わない虚飾の城に思えた。
天国と地獄はそれぞれ思い描くビジョンがあって、羨んでみたり妬んでみたりする。だが一皮剥けば、どちらにも相応に辛いこともある。一括りにするのは的外れかもしれない。
天国も地獄とそう変わらないのだ。
現在の格差問題を当時から予見していたかのような、黒澤監督の冷徹な目線が反映された鮮烈な名作である。
[以降の鑑賞記録]
2019/07/27:DVD
※修正(2025/04/11)
ロープ
とてもよかった
冒頭の自宅から電車まで舞台劇のように人が出入りするだけで場所が動かなかったがすごくスリリングだった。捜査会議も丁寧すぎるのではないかというくらい全部説明していた。
阿片窟みたいな横浜のスラムっぷりがすごかった。
子どもがかわいかった。
三船敏郎が昔の道具を床にばらまいて、かばんの加工をし始める場面がとてもかっこよかった。
犯人が医学生で、頑張れば数年でセレブ生活できるのに金持ちを憎むのがちょっと不自然だった。丘の上の家より、自分の病院の院長の方がずっと憎くなかったのだろうか。八つ当たりすぎる。
15年振りくらいで2度目の鑑賞ですが、どのシーンも印象的でほとんど...
すげー面白かった!
天国と地獄がまさに黒沢天皇の手の中
確か一度ノーカットで衛星放送で観てるのですが
覚えていなかったシーンがたくさんあって
やはり映画館で見ると集中力が違うよなあ〜と改めて感じました。
前半舞台劇の様な犯人のとのやりとりシーンでは
何よりも三船敏郎の圧倒的な存在感!
他人の命と我が身の成功を秤にかけて苦悩するところは
室内のシーンが続くのにまったく飽きずグイグイ引っ張って行かれる。
で、後半は仲代達矢のスマートで淡々としながらも
結構えぐい捜査手法を選ぶ警部と地道な刑事たちの捜査のシーンが
徐々に犯人に迫って行く姿もハラハラして目が離せない。
で、同じ様な警察捜査物の名作「砂の器」の犯人の動機に
ぼろ泣きした身としては、
どんな動機なのか?とドキドキしたのだけど〜〜
これは、一種の不条理映画なのかな〜〜
でも、自身の成功より命の重みを選んだ権藤さん(三船敏郎)と
自身の満足のために命を軽んじた犯人との対比は
やっぱり心にグッとくるし、
時代が変わっても普遍的なものに落ち着いたことが
やはりこの映画を名作にしてるんだろうな〜〜。
撮影過程でよく言われる、
身代金の受け渡しの鉄橋のそばの家の
二階が邪魔だからと、二階を外して撮影したとか
まあ、天皇と言われた頃の
黒沢パワーが映画全面に溢れかえってます。
とにかく面白い!!見ものです!!
あと、余談ですが冒頭の靴の話〜。
あんな簡単に手で引っ張って壊れる様な靴、
絶対売って欲しく無いわ。(by靴屋)
名画!
警察と犯人の人物像が希薄
総合70点 ( ストーリー:70点|キャスト:70点|演出:65点|ビジュアル:65点|音楽:65点 )
子供を誘拐をされそうになった三船敏郎演じる権藤の存在感が大きかった。犯人逮捕のために可能性を探ったり潰したりして地道に捜査をする警察も良かった。
しかし犯罪者と警察の人物像に焦点が当たっていなくて、どんな経緯があってどんな犯罪者が生まれたのかが伝わってこない。人も羨む医者の卵という出世街道まっしぐらの犯人が、何故そこまで劣等感に苛まれ、身代金の獲得だけでなく平気で人殺しまでするようになったのか。いくら夏暑く冬寒い安下宿に住んでいるといえど、もうじき金持ちになれるではないか。最後の言葉による告白だけだと納得できなかった。
また警察も犯人を追跡するための捜査についてはしっかりとした描写があって面白かったが、どんな人が捜査をしたのかの描写が少ない。だから警察の登場人物はただの捜査をする人に過ぎず、魅力的な人物像になっていなかった。結局権藤だけが目立っていた。
脚本が実にしっかりとしている。話が緻密で飽きさせない。 警察の捜査...
脚本が実にしっかりとしている。話が緻密で飽きさせない。
警察の捜査等のリアリティも秀逸。とりわけ、実際の列車を使った一発勝負の撮影だったらしい現金授受の場面は緊迫感みなぎる。
しかし、最後の最後、動機だけがショボすぎる。そこだけちょっと納得いかず。でも現実の犯罪も案外そんなものかもしれませんね。
見てすぐ思ったことは、誘拐ってこんな罪軽かったか?ってこと。当時はそうだったようで、その理不尽さが黒澤監督がこの映画を作った重要な動機らしい。
皮肉なことにこの映画後誘拐事件が増加、結果、刑法改正のきっかけとなったという。
私が幼い頃、夜怖くて寝られないトラウマとなった事件、吉展ちゃん誘拐殺人事件もそのようだ。今親となり改めて思う。誘拐などという卑劣、卑怯な犯罪は絶対に許せぬ、と。
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