天国と地獄のレビュー・感想・評価
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【”丘の上の瀟洒な二階建ての家に住んでいる男を見て、丘下の貧しきアパートに住んでいた男が思いついた凶事。”誘拐犯を追い詰める捜査陣の執念の姿を描いた社会派サスペンス映画の逸品。】
・戦後の混乱期の昭和を舞台にした作品であり、今作がきっかけで誘拐罪の量刑が改正された事は、学生時代の授業で知ったものである。 ・何とも退廃的な、後半のヘロイン中毒者がたむろするヘロイン窟の重いシーンの数々や、ラスト、捕まり死刑宣告を受けた犯人を演じた若き山崎努氏の貧しさ故の鬱屈が爆発した狂的な演技と彼の強がりを憐れみの眼で見るナショナル・シューズの元重役・権藤金吾とが刑務所の金網を隔て対峙するシーンも凄い。 ・更に言えば、二人の未来を暗示するような”ガシャーン!”と二人の間に降りるシャッターの金属音は重い余韻を残す作品である。 <今作を真似て、多数の誘拐事件が発生したそうであるが、この作品を観ていると”俺も出来るのかもしれない・・。”という狂的な思いを誘発するが如き、重厚な作品である。 恐ろしい作品であるが、そういう意味では敗戦の雰囲気を色濃く漂わせるこの社会派作品は、矢張りサスペンス映画の逸品であるのだろう。>
日本のサスペンス映画の傑作
日本映画発祥の地・京都のほぼ中心辺りにある京都文化博物館は、京都にまつわる映画フィルム原版を約800本所蔵し、テーマ企画に沿って館内のフィルムシアター(170席)で毎日上映しています。 先月、“アウトローなヒーローたち・現代劇篇”というテーマ企画で上映された、日本映画史に残る本作を観賞しました。 言わずもがなの、日本三大巨匠の一人にして世界的名匠・黒澤明監督のサスペンス映画の傑作です。2時間23分の長編であり、多種多様な登場人物が出てくるにも関わらず、巻頭からラストまで全く息を抜く間もなく一気に観終えてしまいました。 誘拐事件発生と身代金授受という、三船敏郎扮する製靴会社専務・権藤視点の一人称で進められる前半は、室内劇で恰も舞台劇のようであり、事件がひと段落した後の犯人を追及していく後半は、謎解きミステリードラマに一変し、主体が警察官たちに移行しひたすら地道に現場を辿っていきます。ここでは捜査責任者・戸倉警部を演じる仲代達矢の沈着冷静にして鋭い慧眼ぶりが、圧倒的存在感でドラマをリードしていきます。前半の主役だった権藤は気力体力を使い果たしたことにより存在感が希薄になり、もはや脇役で終始します。 この前半後半の切り替え、ドラマの焦点の移行、サスペンス性の切り口の変換は見事です。 前半は、登場人物たちの欲望と憎悪、怒りと悲しみが諸に曝け出され、裏切りと出し抜きが露見していき、舞台が権藤邸内に限定されていたこともあって、常に緊張感が漂い不安感を煽られていました。最近のように極端な寄せアップは殆どなく、ほぼミドルレンジでフィックスかスローな移動カットで、時に長回しも用いられ、観客は落ち着いて観られるので、却ってスパイラルに不安が増幅されながら先行きへの興味関心が募っていきます。 後半に、この興味関心が謎解きミステリーの渦中に放り込まれ、作者に弄ばれます。戸倉警部の切れ味鋭い捜査追及は、ぐいぐい観客を惹きつけ興味関心をどんどん掻き立てていきます。 実はこの時点で観客には、山崎努扮する犯人の正体を仄めかしているのですが、そこに辿り着き追い詰めていくプロセスの快刀乱麻の痛快さに、観客は益々酔わされていくのです。 犯人の暮らしぶりに映像が移ると、途端に彼の寄せアップの長回しが増え、この人物の閉塞感と虚無感、聡明さと暗さを顕著に漂わせます。既に観客を、犯人の動機の解明への関心に導いているのです。 個性的な名優たちが、刑事や新聞記者、街中の一般人という端役で短い時間のみで、次々と登場しますが、彼ら彼女たちが強く印象に残る演技を披露していくことで、本作にドラマの重みと厚みを備えさせてくれました。その結果、息苦しいまでの緊迫感と重苦しい空気感を、最初から最後まで観客に与え続けたのだと思います。
天国と地獄がまさに黒沢天皇の手の中!
確か一度ノーカットで衛星放送で観てるのですが 覚えていなかったシーンがたくさんあって やはり映画館で見ると集中力が違うよなあ〜と改めて感じました。 前半舞台劇の様な犯人のとのやりとりシーンでは 何よりも三船敏郎の圧倒的な存在感! 他人の命と我が身の成功を秤にかけて苦悩するところは 室内のシーンが続くのにまったく飽きずグイグイ引っ張って行かれる。 で、後半は仲代達矢のスマートで淡々としながらも 結構えぐい捜査手法を選ぶ警部と地道な刑事たちの捜査のシーンが 徐々に犯人に迫って行く姿もハラハラして目が離せない。 で、同じ様な警察捜査物の名作「砂の器」の犯人の動機に ぼろ泣きした身としては、 どんな動機なのか?とドキドキしたのだけど〜〜 これは、一種の不条理映画なのかな〜〜 でも、自身の成功より命の重みを選んだ権藤さん(三船敏郎)と 自身の満足のために命を軽んじた犯人との対比は やっぱり心にグッとくるし、 時代が変わっても普遍的なものに落ち着いたことが やはりこの映画を名作にしてるんだろうな〜〜。 撮影過程でよく言われる、 身代金の受け渡しの鉄橋のそばの家の 二階が邪魔だからと、二階を外して撮影したとか まあ、天皇と言われた頃の 黒沢パワーが映画全面に溢れかえってます。 とにかく面白い!!見ものです!! あと、余談ですが冒頭の靴の話〜。 あんな簡単に手で引っ張って壊れる様な靴、 絶対売って欲しく無いわ。(by靴屋)
後世に誘拐事件模倣が実際に行われた恐るべき映画 魅力が列車と現金を...
後世に誘拐事件模倣が実際に行われた恐るべき映画 魅力が列車と現金を渡すシーン、推理のシーン、尾行のシーンと見どころ満載 最後に犯人の山崎努が三船相手に震えながら告白するところ良かった 三船の背中で終。犯人が存在があやふやになって三船のことが羨ましくて悔やんでる自覚してるかどうかわからないが全身のすごい震えからよく伝わってきた
タイトルなし
横浜映画であり、湘南映画。
竹内はもう一人の権藤であるというか、紙一重の存在である。ラストシーンはその象徴で、度肝を抜かれる。そこへむかってポンと置かれるタバコの火をつけ交わすシーンが印象的。
面白い!
自宅で動画配信サービスを利用して視聴しました。 踊る大捜査線の中で青島刑事が「天国と地獄?」というセリフがあり、そんな映画があるんだなぁと思い続けて20年近く、やっと本作を見ました。 最初の30分はほぼ権藤邸でのやり取りですが、刑事たちと同じ顔になってしまうような心苦しい時間が続きます。そこから特急こだま号での身代金の受け渡しでの緊迫感からの少年の解放、犯人の登場、捜査シーンへの移行、ここまでの流れがとても綺麗で、完璧だと思いました。 捜査シーンに入ってからも、随時、権藤の描写を入れることで刑事たちの事件解決への執念が強化されているように見えました。また、捜査本部での刑事たちの報告や、情報を足で集めていく様子も不思議と見ている側を映画の中に没入させていくように感じました。煙突からの色の付いた煙のシーンは、やはり印象に残りますね。 罪を重くさせるために警察は犯人を泳がせるわけですが、ここからの描写がまた秀逸ですね。警察からの嘘の手紙を受け取った直後、薬を入手するために行ったクラブ、薬が効くかどうか黄金町で試すシーン、実験後タバコの火を権藤からもらうシーン、腰越のシーンと、犯人の感情と性格が見て取れるようになっている構成、素晴らしいですね。自分としては、犯人が歩きながらクラブを見渡すシーンのカメラワーク、黄金町の皆がゾンビのようになっている状況、そこで実験する人間を選んでいる様子、腰越の別荘で犯人が花壇から姿を現すシーンが印象に残っています。どのシーンもサングラスがとてもいい味出してますよね。 自分としては、警察が報道陣に1,000円札の偽情報を流すように相談しているシーンの記者の「それじゃ空いたところで、ナショナル・シューズを叩くか」というセリフも結構印象に残ってます。 また、見終わってから自分でも少し驚きましたが、見ている間、犯人の犯行動機をほとんど気にせずに見ていました。普通、犯行動機は重要な要素になってきますし、そういう描写を入れざるを得ないと思いますが、ほとんどない気がします。あえて言えば身代金要求時の電話で小出しにされていたぐらいでしょうか。不思議です。 面白かったです。
天国から地獄へ!! 製作から60年、いまだにこれを超える刑事ドラマを見た事がない。
横浜の高台の一軒家に住む社長宅。 最初から約60分間、ほぼ一度も屋外に出ず誘拐事件のドラマは進行する。そこにあるのは、恐ろしい緊張感と犯人に関する謎。密室での時間経過ではあるが、被害者の地位と周囲の思惑が見える。舞台的であり、飽きない。信じられないくらい上手いと思う。 続いて刑事の捜査が始まる。文字通り足で犯人の姿を追い詰めてゆく。その執念は軽くは感じない。 犯人の姿が初めて映しだれた乗り替わりの上手さにゾクっとした。 衛生状態の良くない場所に住む犯人は、高台に住む社長というだけで憎む。動機はそれだけだ。ただ犯人は苦労して這い上がった社長だとは知らない。天国の生活をしている社長と、うだるような地獄に居る犯人。社長は地獄に堕ちようが犯人の要求をのんだ。 観る人を飽きさせない黒澤明監督の妙が散りばめられていて、自身も映画の制作を楽しんでいる。こちらは、その手に乗せられて時間を忘れて物語に入り込む。 三船敏郎の抑えた演技。 睨みを効かせた演技をする仲代達也。 新人、山崎努の意外な貫禄。 その他、虎視眈々と社長と重役の座を狙う社員。 汗と埃にまみれ捜査をする刑事たち。 驚きの現金受け渡し。 身代金は特注の吉田カバンを使った。 撮影の邪魔になると、家の一部を解体。 様々なきっかけとなる音楽の使い方。 有名な煙突の煙のシーン。 犯人のサングラスに映る風景。 1960年頃の横浜市内、酒匂川あたり、茅ヶ崎海岸、江ノ島、腰越漁港、今も昔も高級住宅地!!開発の始まった頃の腰越住宅、極楽寺あたり、江ノ電などのロケ地を楽しめる。 結果を知っていても何十回も観た。 これからも何十回も観るだろう。 ※
格差のサスペンス
高度経済成長期に、日本で格差が生まれて、営利目的に子供を誘拐 する事件が起き始めた時代。 金の無い者が、金持ちの子供を誘拐するのならば、話が単純だが、 そこは「世界の黒澤」であって、別の切り口で描く。 詳しくはネタバレになるので、書かない。 完全にサスペンス作品で、映画を見終わった時に、心に「ズンッ!」 とした重みのある物を残す。 後に、人間群像のサスペンスより、犯人捜しの 2時間ミステリー・テレビドラマが流行ったのは、心に重荷を置いて 終わるサスペンスより、犯人が逮捕されたのでハッピーエンドな ミステリーの方が、大衆に受け入れられ、日本人が重さより軽さを 持って終わる作品を求めたから。 格差が、より広がる現代こそ、こういったサスペンス作品が必要だと 思われるが…
世界のクロサワ、最高傑作の1本‼️
黒澤監督には、娯楽作家としての資質と、社会派としての資質があると思うのですが、その二つが完璧に融合しているのがこの作品です‼️至る所で語られていることではあるのですが、前半の権藤邸における密室劇的展開がまず素晴らしい。そして語る必要がない特急こだまによる身代金受け渡しのシーン。後半の警察の全捜査力を動員した犯人追跡のシークエンス‼️古さを感じないどころか、長く後世に語り継がれるべき超傑作だと思います‼️願わくば至る所にカメラがあり、技術も数段進歩した現代においてはどんな"天国と地獄''が撮られるのか、黒澤明監督本人がリメイクした作品を是非観てみたかった
【チョットネタバレあるよ】マッチングアプリあればなぁ!電車から現金投下のスリルと、最後の面会の山崎努の長台詞が全て。
「冬は寒くて眠れない・・夏は暑くて眠れない、【母親も死んじまった、そんな貧乏な俺からしたら】丘の上の大邸宅から見下ろしている あんたはまるで天国の住民に見えましたよ」【実際にレンタルビデオで観た34年前の記憶】 この山崎努の犯人の生々しい拘置所か刑務所の面会の長いセリフが全て 当時日本人は相対的にみれば所得格差はあっても、ほとんどの人が貧しかったから 皆観客がド共感なのだろう。 あとあえていえば2つ山場がある。 誰でも知っている、模倣犯を生んだ、走る特急列車からの🚃スピード感溢れる現金投下。 酒匂川だったような・・当時としては最高レベルの緊張感あふれる瞬時のやり取り。 誘拐されたのは社長である自分の息子でなくて良かったホッとした。 なぜ会社の経営権が乗っ取られる危機的状況に、他人、ましてや使用人運転手の子供に 大金はたかにゃいかんのか?冗談じゃない。知ったことか! しかし自分の目の前で、使用人の運転手が苦しんでいる。その苦しみは 今自分が味わいかけた苦しみなのだ。 下っ端の使用人運転手とはいえ・・というわかりやすい葛藤。 あと当時の盛り場はレトロへんちくりんで、34年前レンタルビデオで観た時でさえレトロ感違和感MAXだったよ。 変なダンスに変な服装、変な調度品に貧相な街並み。 ただ、山崎努だけは、精悍な影のある二枚目青年なのだった。二枚目=イケメンの上級な!Z世代さん。 さすが世界の黒澤明、緩急自在。 だがひとつだけ当時から疑問❓不満なのだ。 高校進学率でさえあまり高くなかった当時【中卒、上京住み込み=金の卵】 大学しかも医学部に進学できて、長身の二枚目。 ちょっとだけ堪えれば、前途洋々の未来が開けるのに! なんで誘拐なんてリスクを犯すのか❓金持ちの女引っ掛ければイイではないか? 【マッチングアプリor出会い系サイト】が無い時代の【たぶんギャンブルかなんかで学費も何もニッチもさっちも行かなくなった】貧乏医学生、二枚目青年山崎努の不遇、最後の咆哮が不憫でならない。 出会い系サイトがあればなぁ。 ちなみにこの映画の模倣犯は、医学生でもなければ、旧制中学か新制高校にも進学できなかったはず。 だって当時は【世の中全体が低学歴】だったから。
天丼100円カツ丼100円安い!
『天国と地獄』と言うが、この映画には天国が登場しただろうか?権藤は会社を追い出され、犯人は結局。どちらも、天国とは言えない。天国があるとすれば、権藤を追い出して、経営を手中に収めた悪徳重役って事になる。
さて、そうなのだろうか。
権藤が『新しく始めた靴屋』なのだろうと思う。権藤が本当の天国を最後は掴んた、と黒澤監督は言いたかったのではないかと思う。
やっぱり、この映画は傑作だと思う。
こう言った『阿片窟』の様な所が、黄金町にあったのかは知らないが、25年くらい前まで、この辺(黄金町駅)は『オランダ、アムステルダムの飾り窓の女』の様な店が軒を連ねていた。入った事はなかったが。日本の様でなかった。川崎の堀之内にもそんな所があった。
黄金町のゴーゴー喫茶のお品書きの看板に天丼100円カツ丼100円安い!阿片窟の宿屋のお休みも100円だった。全く地獄だ。
さて、今では、そんな所なくなったのだろうか?
追伸 この頃世間を騒がせたのは『吉展ちゃん事件』を始めとした誘拐事件だったと記憶する。日暮里の大火とこの事件が妙に記憶に残っている。
「いつ見ても面白い」傑作
傑作。何度見ても飽きない。役者が生き生きしていて黒澤明圧を感じさせない。 七人の侍(1954年) 生きものの記録(1955年) 蜘蛛巣城(1957年) どん底(1957年) 隠し砦の三悪人(1958年) 悪い奴ほどよく眠る(1960年) 用心棒(1961年) 椿三十郎(1962年) と傑作を発表し続けて、脂の乗り切った53歳に作り上げた傑作である。この後に発表する赤ひげ(1965年)から駄作が続いていく。影武者(1980年)に至っては、黒澤明の演出時の癇癪が画面から滲み出ていて見苦しいくらいである。やはり、人間は「実るほど頭を垂れる稲穂かな」でなくてはいけない。映画は総合芸術であるから、他人の協力が得られなければよい作品にならないのは言うまでもない。トラ・トラ・トラ!(1970年)で失敗したのはリーダーに求められる資質に欠けていた黒澤明にとっては当然の帰結であった。短気、身勝手、口下手、気難し屋、偏執という黒澤明の性格を知り尽くした黒澤組というスタッフあってこその傑作なのであって、そのことを忘れてしまったか死ぬまで気づかなかった黒澤明の限界が晩年に一気に現れた。こういう人間が権力を握ったらこういう結果になるという良い見本なのである。さて、この「天国と地獄」は、とにかく見始めたら最後まで止められない、すべてのカット、ストーリー、画面と混然一体となった音楽、画面の美しさ、どれをとっても映画の見本のような傑作なのである。会社乗っ取りを策謀したせいでばちが当たったかのように使用人の息子のために身代金を払っていったんは破滅するものの小さいながらも再び製靴会社を任される三船敏郎演じる資本家。誘拐犯にいったんはしてやられるが最後には不要な殺人まで犯させて「これでお前は死刑だ」と快哉をあげたり、三船敏郎演じる資本家に金を取り戻しましたと告げて笑みを浮かべる仲代達也演じる薄気味悪い刑事。自分だけが不幸と勝手に思い込んで金持ちを不幸にすることにエネルギーを注いで身代金をせしめしてやったりと思っていたらあれよあれよという間に捕まって死刑になる山崎努演じる馬鹿医学生。三船敏郎演じる資本家を抱き込んで会社乗っ取りを企んで意気軒高だったが逆に会社から追い出されそうになったものの、誘拐事件で三船が失脚して会社に残れた専務ら資本家たち。誘拐された子供。その親。地獄の生活から抜け出すために一時の快楽のために麻薬を求める者たち。それぞれの「天国と地獄」がきめ細かく描かれる。昭和30年代にクーラーの効いた山の手の戸建て住宅に住む者と、当時の庶民との関係だけが天国と地獄ではないのだ。警察発表を鵜呑みにする愚か者集団のマスコミを含めて、令和の世になっても、この映画に描かれている人間模様はいたるところで見られる。だからこそ、この作品は、「いつ見ても面白い」傑作なのである。
不信なことが、 エド・マクベインの原作だから?
映画レビューのクラスで使おうかと思ってみてみた。 黒澤明は大好きなので、これを何度か見ている。 1963年の作品だと改めて背景を考え、どこに焦点を当てて書こうか?
権藤金吾(三船敏郎) の権力に屈しない頼もしさや自分の地位や資産や株を諦めて、お抱え運転手の子供を救おうか葛藤していくところ?人間の善悪を金の価値で決めない行い? それとも、医学生、竹内銀次郎(山崎努) に焦点を当てて、彼の貧困育ちや環境悪や孤独への責任転嫁からくる自業自得。いや、果たして、自業自得なのか、自助だけでは生きられないという人間性?それとも、大金持ちの育ちで、世間知らずの天使の心を持った権藤の奥さん。 それとも、権藤のお抱え運転手で、息子を誘拐された父親、青木の心境と行動?それとも、戸倉警部の操作側や戦後の社会情勢(黄金町(こがねちょう))?竹内を泳がしたことによりまた一人殺させちゃったね。こう言うこと当時の警察側ではどう判断するんだろう?薬中だからいいの?それに権藤さんのために星を泳がせるが、前向きな権藤がこんなこと本当に望むだろうか!それに、こう言う捜査の善悪の判断は?
色々考えているうちに、一番感情移入しやすいのは権藤。彼の心の葛藤はあるが、マスコミのせいもありあまりにも聖人になってしまったので、ちょっと、書きにくい。それに、役員から職工にと初心に戻ってでなおせるこの人物は大物過ぎる。二足三文ではなく、靴の価値の意味、全体重を乗せる靴の重みをよく知っている。個人的にだが私も靴だけは結構高く素材や質や縫製のいいものを履く。全体重を乗せるから。
医学生、竹内銀次郎(山崎努) に焦点を当ててみたい。彼は自分が貧しかったことを、そして、権藤家の暮らしは天国で、自分の夏は暑く、冬は寒いアパートは地獄だと。彼は権藤家が気になるようになって、毎日、望遠鏡で、眺めて、羨望の気持ちが、いじめ(ここでは誘拐犯罪)に発達していったということだ。子供の頃も貧乏であったようだ。ただ、医学を学んでいるようだから、賢かったに違いないし、論理的なことも得意だったようだ。 当時のこだま号、在来線特急のトイレの窓が鞄の厚み7センチだけ開くことや電話があることも調べ上げていた。黄金町の麻薬や青線地帯にも詳しく、ちょっと不良インターンと言ったほうがいいかも。
高度成長の波の下敷きになった竹内家はどんな生活だったのか!知る術もない。そこは焦点じゃないからねえ。高度成長期に生きるたくましい権藤がヒーロー化される時代だったかもね。
竹内は永山則夫の世界だったのかもしれないねえ。
でも、息子をどうやって医科大学に出せたのか。エド・マクベインの原作がそうなっていたから?竹内家が貧しくても子供を大学に行かせたのか?町の有志が援助したのかわからないが、当時としてはこの設定は不自然かもね。それに手に大きな傷があるがなぜが何も分からない?ただ手掛かりの一つ?違和感が残る竹内の背景。最後のシーンで竹内が権藤に会いたがって留置場で面会するシーンだが、精神的に天国と地獄の立場は変わらない。権藤は苦難を乗り越え天国の階段にいる。苦難を乗り越えかたを知っていると行ったほうがいい。竹内は苦難が嫉妬に変わってしまっている。そして、自分が地獄へ落ちていくことに対する恐怖感?傷がついている方の手の震え? 権藤を地獄に落としてほくそ笑みたいと思っていたが自分が死刑になる。
はっきり言って、警察の横暴が現れている。一人の人間をもっと犯罪を犯させるようにする事は倫理的だろうか? 胸糞が悪い映画だ。
4/20/22 追加
映画レビューのクラスで使った。 英語圏の学習者で中級の上(ACTFL)以上の学習者。1.5x2=3時間弱のクラス。 まず、時代背景が重要なので1960年安保闘争から、1064年のオリンピックに向けて、政治・経済・社会の動きについて学習者に調べさせ発表させた。 この映画の登場人物の誰に感情移入できるかとか、なぜできるかとか、一番好きなシーンはとか話し合った。ズームのブレイクアウトルームを使っているので、ペアで話しているが、クラス全員に戻った時、数人に意見をいってもらった。権藤の秘書、川西に感情移入できるといった学習者の理由は現代社会においてよくあったり見たりするケースで感情移入しやすいと。好きなシーンは最後の、権藤が竹内のいる監獄を訪れたシーンだというのが多かった。竹内の絶叫hシーンは映画の締めくくりにぴったりだったようだ。学習者の一人は、『竹内は狂ってしまったのか』と疑問を投げかけ、このシーンで『初めから狂っていた』と言っている。それは彼の立てた綿密な犯罪計画からしても、誘拐犯罪に対してこういう計画を立てること自体狂っていると。こういう頭の良さを医学に使えと。れいこ、戸倉警部、権藤、竹内、マスゴミが焦点になったが、警察のマスコミ利用により、もう一人の麻薬患者を殺させて、社会が麻薬患者をどうでもいい存在として扱っているという意見があり、これについて、クラスは2つに分かれた。一方はそれは操作の過程であって、故意に、もう一人の人間を殺したわけではないという。
私も個人的な意見をちょっと述べた。特に竹内の孤立感、追い越せ、追いつけという高度成長期に自分をどう確立していく方法かわからなく、負の方向の動きに走ってしまう。 『共助』の動きはどうなっているのか?今の社会との共通性が多くある。
the黒澤
天国と地獄、表と裏、白と黒みたいなテーマが若い頃から好き… よく頭の中で考える癖がある、うだうだと…自己流哲学だ 天国と地獄を大きく分ける物語とストーリー中の小さな天国と地獄が随所に垣間見える 会社経営の局面と、誘拐犯にどう対処するか、犯人の成功不成功 こう考えると本当に面白い脚本なんだな、と…原作はアメリカの小説らしいけど 黒澤映画をほとんど見てないんだけど(^^;) 今なかなかお見かけしない(見られない)三船敏郎や木村功、志村喬、千秋実、三橋達也、田崎 潤、名古屋章、藤原釜足、加藤 武と懐かしい昭和の俳優がぞろっと揃ってる 若い仲代達矢と山崎努の瞳もすばらしい 舞台が横浜なのも嬉しい
古さを感じず、引き込まれる…
前半は三船敏郎が中心に描かれ、テンポも良く、どんどん次の展開に引き込まれる。特に身代金受け渡しのシーンは印象深い。後半は仲代達矢ら刑事の執念の捜査、犯人が山崎努とわかってからの張り込みなど、緊迫感ある。黄金町のドヤ街などインパクトあり。三船の会社の立ち位置や、捜査模様が丁寧に描かれていただけに、ラスト、なぜそうまでして、恨みをもって犯行に及んだのか、もう少し描いてほしかった。結局、高台にある三船の豪邸が天国に見え、下界で暮らす自分の境遇が地獄と言うことだったのだろうが、医者の卵?インターンの青年が地獄の境遇と言うのが、あまり腑に落ちなかった。三船敏郎は渋く、力強く、今の役者では中々代わりはいない。
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