「トットちゃんの母の物語」チョッちゃん物語 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
トットちゃんの母の物語
2023年12月公開されたアニメーション映画『窓ぎわのトットちゃん』にも登場するトットちゃんのお母さんこと、黒柳朝を主人公にした作品だ。配信もされておらず知る人ぞ知る作品だと思うが、本作を観ると『トットちゃん』の原作でも映画でも描かれていない部分がわかるので、『トットちゃん』を補完する作品として貴重なものとなっている。
トットちゃんは、天真爛漫で何にでも好奇心旺盛な子供として描かれているが、この映画を観るとそれは母親譲りだったのだなと思える。トットちゃんが小学校を追い出される際のエピソードがあるが、こちらの作品でお母さんは、トットちゃんがちんどん屋を呼んことを知ると「良かった」と先生の前で言ってしまう。子供が喜んだからお母さんはそう感じたのだ。結婚も父親の反対を押し切って駆け落ち同然であって、大胆な行動力はトットちゃんに通じるものがある。
『トットちゃん』最大のミッシングリンクは、弟の死だ。『トットちゃん』では兄弟のいない一人っ子のように描写されているが、黒柳家にはトモエ小学校に入学する時点で下に弟と妹がいたのだ。
母親が主人公なこともあり、長男の死は最も重要なエピソードとして本作では描かれている。それが『トットちゃん』で描かれていない理由はわからないが、当時の生活の大変さがより多角的に伝わってくる。丁寧に演出されている隠れた良作だ。
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