菊豆(チュイトウ)のレビュー・感想・評価
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封建的因襲に押し潰されていく男女
チャン・イーモウ監督が『ハイジャック 台湾海峡緊急指令』に続いて、『紅いコーリャン』では助監督を務めていたヤン・フォンリャン(楊鳳良)と共同監督した中日合作映画(今は無き東光徳間が出資に参加している)。
初公開時に観たが、封建的な因襲に押し潰されていく男女を描いた、とにかく陰々滅々とした気の滅入るような映画で、陽性の爆発力にあふれていた『紅いコーリャン』に比べるとかなり落ちる出来だと感じた。それは今観直しても変わらない。チャン・イーモウによると『紅いコーリャン』は中国の理想を描いたのに対して、本作は中国の現実を描いた映画とのこと。
ただ『紅いコーリャン』では構成要素の一部という印象だったコン・リーの存在感がぐっと前面に出てきたのは印象的で、そういう意味ではコン・リーを初めて「女優」として認識した作品だった。ただ、それはそれとして今になって観直すと主人公はむしろリー・パオティエン(李保田)のほうで、コン・リーはトップクレジットながらヒロイン役という印象。李保田は確かコン・リーの中央戯劇学院時代の担当教官だったんじゃなかったかな。
また原作では農家だった舞台を映像的に映えるために染物屋に変更し、また実際には存在しない大型染色道具が創造されているとのこと。このあたりはいかにもチャン・イーモウ。さらに『紅いコーリャン』に続き、当時の中国ではギリギリのエロティシズム描写も試みられている(日本人から見ればずいぶんおとなしいもんだが)。しかしと言うべきか、それゆえにと言うべきか、中国国内で賛否両論の大論争となった『紅いコーリャン』に続いて、本作はとうとう国内上映禁止になってしまったらしい。
禁断の恋と子供の心境
ドロドロと美しさ
テーマの重さや暗さに反した染物の真紅や黄色など鮮明な原色が実に効果的で印象深い作品
新文芸坐さんにて『艶やかなる紅の世界』と題したチャン・イーモウ(張芸謀)監督の初期作品の特集上映(25年1月24日~29日)開催、未配信の『菊豆(チュイトウ)』(1990)、『紅夢』(1991)を鑑賞。
『菊豆(チュイトウ)』(1990)
2008年北京オリンピック開会式および閉会式の総監督も担ったチャン・イーモウ(張芸謀)監督の3作目。
サディストで前妻二人を死に至らしめた初老のもとに売られてきた若妻が、純朴な初老の甥と逢瀬を重ね、甥との間に身ごもり、そして破滅していくストーリー。
本作でも監督とコンビを組んだコン・リー(鞏俐)が嫁いだ矢先の儚げな少女から、初老の男性が脳卒中で身体不自由になると復讐の炎をたぎらせ彼を追いつめる憎々しい悪女まで振れ幅の大きな役を好演。華奢でなく肉感ある体躯と可憐さと性悪女を演じ分ける彼女は日本では京マチ子氏と重なりますね。
中国の古の因習、男女の肉欲、因果応報などをテーマに描きながら舞台を染物屋に設定。
テーマの重さや暗さに反した染物の真紅や黄色など鮮明な原色が実に効果的で印象深い作品、この色彩の豊かさは次回作以降でも継承されますね。
何はともあれ美しい映画
ワルい子にもほどがある
1987年の紅いコーリャンに次ぐ、1990年のチャン·イーモウ監督作。
原作は農家らしいが染物屋に変更したそうだ。
目の付け所が素晴らしい。
ヤク(牛)に廻させる大きな歯車の仕掛けも実際は染物屋には必要のない創作物だそうだ。
染物屋の建築構造も天然の撮影セット。
奴隷同士の密通はノゾキ穴がきっかけ。
金で買われたとはいえ、菊豆(コン・リー)の昭和テイストがたまらない。
マダム楊は夜毎悲鳴とも絶叫ともつかぬ声をあげる。天青でなくとも気にならざるを得ないよね。
半身不全になった男には菊豆と天青のマグワイアを見せつけてやることがもっとも効くかな〜と思いましたが、それほどの描写は無理な中国映画。日中合作と言えども、お金を出しただけというのもまぁ良かった気がします。
私が幼かった頃、隣の家は染物屋で、長い反物を針のついた竹ひごを等間隔に張って干していました。とても芸術的な反物の染物。私が小学校に上がった頃には廃業してしまいましたが、隣のチャコお姉ちゃんにはいろいろ遊んでもらい、いろいろ感謝しています。
天白という名前を決めた楊一族の長老は裏目に出てしまいましたね。あそこまで因果応報でなくても良かったような気がしますが、真っ赤な反物と炎は映像作品としてインパクトありました。あの子どもはいかにも惡そうでした。怖かった。紫色の学生服でデビューした藤正樹そっくりでした😎
苦界のような結婚
菊豆(コン・リー)が最初から最後まで哀れだった。貧しさゆえの結婚で金で買われてきた。求められているのは、男子を生むこと、染め物屋の仕事と家事をすること。今までの二人の妻は子どもが生まれないが故に(理由は夫)暴力振るわれ虐待され死んだんだろう。同居する夫の甥・天青も染物の仕事をする。情けないおじさんに見えたが、菊豆と心と体を交わす間柄になってから頼りになる男の顔と身体になっていった。
美しく染められた色とりどりの布が高い天井の上から何枚も吊るされて、空気の動きと共に優しく揺れる様子は言葉に表せないほど美しかった。染料を入れた溜池がある木造の工場には屋上もあって、子どもにとっては危険でありながら楽しい遊び場みたいだった。戸外の場面も多く、野原、川、里山などの自然の映像も素晴らしい。染め物屋の二階にある夫婦の寝室だけは地獄だった。
天青との間にできた息子の天白が何を思っているのかわからなかった。母を大事に思っていることは伝わる。どちらの男を息子は憎んだのだろう?そもそも息子にとって大人の男、父親なんて不要で邪魔者なのかも知れない。母が苦労し他人から後ろ指差され辛い思いをした原因はすべて男だから。
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