「マックィーンの遺言は笑顔。」明日への遺言 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
マックィーンの遺言は笑顔。
最近の法廷ドラマで代表的なものといえば、邦画では
「それでもボクはやってない」が思い浮かぶんだけど、
私はあの作品が大好きだ。
ダラダラと続く法廷シーンが主人公の苛立ちと重なり、
イライラエンターテインメントの真髄を見せてくれる(爆)
そして同時に疑われたら最後。の恐ろしさがジワジワと
胸に迫り、女性の私ですらたまったもんじゃなかったxx
ああいう視点で描かれる法廷劇は初めてだったうえ、
あれが通常に下される審判なんだという矛盾を学んだ。
今作は、それとまったく対極にあるような描き方をする。
岡田中将が強く訴えるものをこちら側に強くは訴えない。
藤田まこと演ずる岡田中将の誇り高き生涯を描く作品、
であるからして地味なのは仕方ないとしても、かといって
彼のことをことさら賛美するような描き方もしていない。
ドキュメンタリーほど淡々としていないが感情的でもない。
あ、ナレーションだけは感情的。
抑揚がない、といったらいいのかな…。法廷劇というより、
彼の気高い精神を高々と(そして延々と)語る作品というか。
だったら法廷劇でなく、日常を謳っても良かったのでは。
米国に対する恨み辛みが要所に出てはくるものの、それは
岡田中将の口からは皆無、彼はただひたすら、同じ口調で
同じ回答を繰り返すのみ。「報復」ではなく「処罰」だと。
そして全責任は司令官である自分にあるのだということを。
あまりに理路整然として捉えどころに困る作品なんだけど、
監督が小泉堯史ということで、これで完成となったのかな。
私は藤田まことの偉大な「説教」の元、岡田中将の人間性を
もっともっと観たかったし、画面でも映し出して欲しかった。
当時の日本にこんな毅然とした品格を持つ軍人がいたこと。
戦場での彼、家庭人の彼、周囲に対する配慮は刑務所の
やりとりで分かるけれど、あれで彼のすべてが描けているか。
藤田はさすがの演技力で彼に成り変わっているけれど、
彼を取り巻く世界観が静かすぎ、整い過ぎている気がした。
話は変わるけど、検事役で故・S・マックィーンの息子、
F・マックィーンが熱演している。一応敵役なんだけど…
劇中で彼がチラリと見せる笑顔が、父親とソックリ!で
私はそこに感動してしまった。。
私には彼が、大好きなマックィーンの遺言のようだった。
(戦争における傷み・憎しみ・哀しみは常に平等だと思う私。)