スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ : インタビュー
三池崇史監督インタビュー
――ストーリーの骨格は「用心棒」(61)だと思うんですが、やはり意識していたのですか?
「『用心棒』は凄いですよね。絶頂期の黒澤さん、そして時代も凄かったんでしょう。日本人にもパワーがあったんだと思います。あれは映画人だけで作れる映画じゃないですよ。あの時代に乗っかった映画人が時代の力を借りて作った映画です。それに、演出とかの問題ではないですね。またコンテ割りとか、役者とか、そういうことを超えたところにある力がある作品だと思います。もう次元が違うので、単純に勝ち負けを競うのではなくて、借りるものだと思ってます(笑)」
――突風を巻き起こす扇風機なんかは「用心棒」から拝借してましたね。
「扇風機は常時使ってました。ただ、あれは結構厄介な代物で、役者の声をかき消してしまうから、あとからアフレコをしないといけないんです(笑)。役者たちも“今英語を上手くいえたのに!”とか言ってましたね。でも今回は役者たちが頑張ってくれましたよね。
役者っていう生き方がすでにアウトローじゃないですか。にもかかわらず、役者たちが演じている役、求められている役っていうのが、ちっともアウトローじゃなくて、普通の弱い人間で、“泣かれて幾ら”みたいな感じになってますよね。もっとも、客がそういったお涙頂戴を求めているわけではなく、中間にいる作り手が不特定多数の客を狙って普通の役を求めるんでしょうけど。それでも普通じゃないメチャクチャな生き方を求めて役者になったのに、普通の人間の役しか回ってこないっていう役者たちのフラストレーションって凄いと思うんです。だから、今回の現場ではそのフラストレーションを利用させてもらいました。普通に現場にパワーが満ちているんですよ。ちょっと現場に立ってもらうだけで、彼らは暴走してましたからね。この彼らの暴走は、演出家として良しとしないといけないし、出来るだけ殺さないようにしました」
――三池監督というと、残酷なシーンが多い印象があるのですが、今回は割と控えめでした。
「そうですね。同世代というよりは、最近僕が気になっているのは、“僕らが面白いと思うようなことが今の子供たちに通用するんだろうか”ってことなんです。子供たちがこの映画を見たときに、そのとき楽しむかどうかは別にして、“こんな映画もあるんだ”“日本人が西部劇やってもいいんだ”っていう風に、何らかの影響は受けると思うので、そこから子供たちの“映画”というものに対するキャパシティーが広くなればいいなあって思うんですよ。僕が歳をとったのかもしれませんが、(下の世代に)何か植え込んでいきたいって思うようになったんです(笑)。自分はいずれ年齢的にも落ちていくだけなんだろうけど、将来、植え込んだ何かが自分の知らないところで、花開いてくれたらいいなと。この映画を見た子供たちが大きくなって居酒屋でオヤジたちと“『ジャンゴ』って映画あったよねえ”なんて話してくれたら、それはとても嬉しいし、もし、その彼が落ち込んでたときに『ジャンゴ』の話で少しでも元気になってくれたら、それはもう一番のお客さんですよね。もちろん、ヒットしてもらった方がいいですけど、公開時の興行収入だけではかられたら、それはちょっと侘びしいですから。まあ、お父さんに連れられて劇場に来た子供が、本当は違うのを見たいと思いつつ、親子の力関係で強引に『ジャンゴ』を見させられて“たまには大人の言うことも聞いてみるもんだ”なんて感じてくれたら面白いなと思ってます(笑)」
――監督自身は、子供のときに親に連れられて、強引に見させられた映画あるのでしょうか?
「僕が初めて洋画を見たのは、親父が競艇で負けたか何かで、早く帰ってきたときに連れられて見に行ったスピルバーグの『激突』(72)ですね。それまで、『東映のアニメ祭り』とかその類の映画しか見たことがなかったので、かなり面白かったのを覚えてます。もし、あのとき親父が競艇に負けてなかったら、映画監督になっていなかったかも知れないですからね。自分の知らないところで、自分の運命が決まっている。それに人は気づけないでいるからあたふたするし、楽しいんでしょうけど」
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