雲南の少女 ルオマの初恋のレビュー・感想・評価
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焼きとうもろこし
ユネスコ世界遺産にも登録されている、中国雲南省の奥地にある棚田。標高2千メートルを超え、雲を下に見下ろすところにあるのです。高地の壮大な景観のなかに、折り重なるように田んぼが広がっている映像には心洗われる思い。そこで農耕を営んでいる少数民族ハニ族。純粋で心優しく、また、女性たちの煌びやかな衣装・アクセサリーが際立っているのです。観光地化されても生活はほとんど変わらない。時折、都会への憧憬を感じる程度・・・
ルオマは市場でとうもろこしを売る17歳の少女。「可愛い」と言われ、観光客に写真を撮られるルオマ。やがて、カメラマンを目指す青年アミンと出会い、観光客相手に棚田を背景に民族衣装の彼女と写真を撮る商売を思いつく。1枚10元。とうもろこし20本分の金額だ。この仕事は成功し、次第にアミンに惹かれていくルオマ。しかし、アミンには都会に残してきた恋人リリがいたのだ・・・
ルオマが初めて手にするウォークマンと、初めて耳にするエンヤの澄んだ歌声。都会には行ったこともないし、話に聞くエレベーターにとても興味を持つ。とにかく純朴そのもののルオマは、村には若い男もいるけど、都会の匂いを漂わせるアミンに惹かれていった。決定打となったのは“泥かけ”なのですが、このシーンに至るまでの過程もなかなかよかった。
ルオマの純粋さにも心奪われてしまうのですが、彼女と一緒に暮らすおばあちゃんもいいのです。ハニ語しか喋れないというおばあちゃん。言葉少ないのに、心を伝えるのは天才的。眼前の雲海に向かって寂しそうに一人謡う一方で、しっかりと卵と餞別を残すところなんて感動的でした。
そして、最後まで明かされなかったことの想像。小さいときから両親はいないと言っていたルオマでしたが、彼女の両親は亡くなったのではなく、都会へと移り住んで戻ってこなかったんじゃないかと・・・そうでなければ、おばあちゃんの寂しそうな姿の意味が弱くなっちゃいますもんね。
ちなみに石川県にも白米千枚田(しらよねせんまいだ)がありますけど、海に面しているからこの雲南とはかなり雰囲気が違う。最近は冬になるとライトアップとかされてるし、ぜひ一度行ってみたいものです・・・
【2007年9月映画館にて】
一粒で二度の味わい
とても趣のある貴重な作品のように感じました。中国、雲南省には多数の少数民族が暮らしているそうですがその中のハニ族の暮らしぶりが、瑞々しく、それは美しい棚田風景の中で描かれています。世界ユネスコ遺産にも登録されているというだけあって、ひと目見ただけで忘れられないようなノスタルジックな風景です。この棚田から作られる道とは言えないような一本のあぜ道をひたすら下って、17歳のルオマは、市が開かれる繁華街までおばあちゃんの茹でたトウモロコシを売りに行きます。ひと目で見てわかるような純真無垢な顔立ちは観光客の目にとまり、しばし一緒に写真撮影を要求されるのです。それを伺っていたアミンという昆明の青年は、彼女の好意を利用して、自分の帰省費用を作ろうとしますが・・・。
この物語の魅力は二つあります。ひとつは先に述べたような異郷・異文化の人々の印象的な伝統服や暮らしぶりは、その中の人たちにとっては当たり前で全ては生きるためなのですが、傍観者である私たちには、時が緩やかに過ぎていくような美しい自然の中で繰り広げられる別世界、どこかノスタルジーに浸れる場所として映ります。
そして、ルオマの目を通して、都会やそこに暮らす青年と接することで、初めて感じる憧れが何か宝石のひとしずくのような輝きをもって描き出されます。時代のうねりの中で、守るものと発展していくもの狭間をどう折り合いをつけていくのか、そんなテーマも暗示しているようでした。
もう一つの魅力は主人公、ルオマそのものです。この映画はアミン役の青年を除いて、全て本当のハニ族の現地の方々を起用したそうです。主人公ルオマも然り。彼女のおばあちゃんも寡黙で心持ちの善さが滲み出ていますし、この起用された配役の方々の魅力なくしてこの作品は語れないだろうと思いました。
好きで心に残るシーンも満載。ルオマがアミンから代金代わりに引き受けた、携帯の音楽プレイヤーを耳にあて棚田を視界に、初めて聴く音楽にみるみる顔が朗らかに輝いていったシーンが心に残りました。それと、伝統的な男女の愛の告白は田んぼの中での泥のぶつけ合いなのですが、そんな事情を知らないアミンから彼女が顔に泥を当てられたときの戸惑いながらも、はにかんだような笑顔が可愛かったです。
初恋物語というと、中国では「初恋の来た道」が有名ですがこちらもおすすめしたい作品です。
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