シッコ : 映画評論・批評
2007年8月21日更新
2007年8月25日よりシャンテシネ、シネマGAGA!、新宿ジョイシネマほかにてロードショー
“地獄の沙汰も金次第”な医療状況にメスを入れたM・ムーアの新作
「ボウリング・フォー・コロンバイン」や「華氏911」でのマイケル・ムーアの主張には賛同しかねるという人間でも、国民が金のことなど心配せずに病気や怪我の治療ができる社会が理想的であるということに反論できる人は居ないのではないだろうか。ムーアの新作「シッコ」の強みはまさにそこにある。
国民健康保険のような国民皆保険制度が無いアメリカでは、06年の統計で、就業していない成人の58%近くが、就業している成人でも23%近くが、健康保険を持っていないという結果が出ている。一方、親子3人で月額800ドルの健康保険料を支払っている我が家族(カリフォルニア在住)にしても、救急車に10分間乗っただけで1,000ドルとられたことがある。こんなケースはザラにあるから、「シッコ」の中でムーアが紹介するアメリカの医療現場での悲劇やホラー・ストーリーは、アメリカ人観客の多くにとって他人事ではないに違いない。
「シッコ」の中でイギリスの政治家トニー・ベンが「持てる者が持たざる者の面倒をみる。これこそが民主主義というものだ」という実にまっとうな意見を述べているが、“世界で民主主義を推進している”はずのアメリカの“地獄の沙汰も金次第(英語ではWho pays the physician does the cure.「シッコ」のテーマにピッタリ!)”な医療状況には、ムーアと共に大いに疑問を感じざるを得ないのである。
(荻原順子)