「私は砂の方がいい。」私は貝になりたい ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
私は砂の方がいい。
テレビドラマの歴史に伝説を刻んだ名作「私は貝になりたい」。
1959年に橋本忍監督・脚本、フランキー堺主演で映画化された。
その後…おそらくTV再放送で何度か観た記憶があるのだが、
それがいつ頃だったのか、自分が何歳だったかも覚えていない。
ただただ強烈に残っているのが、絞首台への階段を上りながら、
例の「貝になりたい」理由を彼が切々と語るラストシーンだ。。
未だに自分の記憶から消えていない。
そこまでの不条理さに怒りを覚えながら、この遺書ともいえる
彼の小さな切望には涙が止まらなかった。
深い深~い海の底の…と彼が語るところで、モノクロの画面に
海の底へと沈んでいく小さな二枚貝が映る。
その貝と彼がリンクされて交互に映し出される長い語りの場面、
どうしてこのおじさんがこんな目に合わなければいけないの!?
子供でだって絶対そう思うはずだ。こんな結末でいいのか、と。
そんな戦争の不条理と悲劇を描いた不朽の名作を、同じ
橋本忍の脚本でリメイクした本作、特に違和感はなかったけど…。
まぁ、、どうしたって過去作と比べられるのは仕方ないし、
なんで中居と仲間??みたいな違和感も多少はあると思うけれど、
ある意味現代版:貝になりたい。という感じで観ればいいと思う。
訴えていることは同じだし、どうしたってこの不条理さを感じざるを
得ない作りになっているので、初めて観る人でも大丈夫だと思う。
原作者:加藤哲太郎の手記も最近ドラマ化されていたが、
全てがノンフィクションではないものの、BC級戦犯死刑囚の悲劇と
その後、講和条約締結で釈放されることを信じていたくだりなどは、
今作で描かれているのと同じだった。助命嘆願を続ける妻の苦労も
同じように描かれていたと思う。アチラは逃亡劇だったのに対し、
コチラは誰もがもう釈放されるものだと信じ、
それを待つ流れにのっていた矢先の、突然の悲劇ということになる。
実際には豊松のような二等兵が処刑された事実はないそうだが。。
こんな悲しい時代に生まれ、嫌な時代を生きた人々にこそ、
本当の人間らしい暮らしがもたらされなければいけなかったのに、
戦後にそれが叶う反面、不当な扱いを受けた名ばかりの戦犯達が
たくさんいたのだということ。
米国主導で執り行われる裁判のアチラ側とコチラ側の温度の違い、
中居くんでなくても叫びたくなるだろう…!と思うほどの意識差、
無情な国家犯罪に巻き込まれた市民には、本当に固く口を閉ざし
深い海の底の貝になるしか方法はないのか…と思うばかりだった。
(辛いけどもう一度フランキー版が観たい。これぞ必見反戦ドラマ。)