劇場公開日 2007年6月2日

「浮気をするなら大人としろ!」あるスキャンダルの覚え書き kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0浮気をするなら大人としろ!

2018年10月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 なんだか名言のようなビル・ナイの台詞が印象的です。それにしても、教師と生徒のセックススキャンダルがこれほどまでの大騒動になるとは、さすがイギリスでしたよね。普段、ハリウッド映画ばかり観ていると、ちょっとビックリするかもです。それにしても、そうしたネタに飛びつくタブロイド紙の記者たちも凄いです。イギリスのお国柄の一端を垣間見たような気分・・・

 やはり見どころは2人のオスカー女優の競演。特に、定年間近のオールドヴァージンのベテラン教師バーバラを演じたジュディ・デンチは、まるでその人物に乗り移ったかのように鬼気迫る演技。孤独、嫉妬、自尊心、そして強迫と裏切り。ナレーションが彼女自身であったこともあって、観客は否応なくバーバラ視点を強要されるわけですが、たとえ同じ境遇に立たされたとしても猫の死という転換期からはまったく共感できなくなる性格に背筋が凍りつくほどの思いになりました。

 (個人的)男性目線からだと、シーバ(ケイト・ブランシェット)の情事の相手である少年にも感情移入してしまいます。中学時代にいた憧れの美人美術教師。受け持たれたこともない先生だったのに、美術室前で呼び止められ、雑用を手伝わされた経験を思い出しました。狭い美術準備室には2人きり。大人の女性の匂いが少年の心をくすぐってきます。ほんの30分ほどの甘いひとときを大人になってからあれこれ妄想してしまう記憶。そんな記憶のせいで少年の心にどっぷりと溶け込んでしまいそうでした。

 「浮気をするなら大人としろ!」・・・シーバの年上の夫の声によって、ハッと気が付き、大人視点になった自分がいました。性能力の衰えを認め、妻を満足させられない哀れなコキュでありながらも、ビル・ナイには家族の幸せだけをひたすら求める姿に人生の達人を感じてしまいます。そして、外見からは判断できないブランシェットの孤独。さらにはその孤独性を早々と見抜いていたデンチの眼力。もしかすると少年にも見抜く能力があったのかもしれません。各々の登場人物の心理がこうやって手にとるようにわかるほど、見事なストーリーを組み立てていたのです。

 無理矢理とも思える友達作り。相手に自分の理想にそぐわない部分があると、それを許せない性格の主人公。友人であれ、恋人であれ、夫婦であれ、相手の欠点をも理解する寛容さがなければ、自然な関係は生まれない。小品でありながら様々なことを教えてくれる作品でした。そして、終盤に校長がバーバラに過去の事実を責め立てる内容に愕然・・・さらに追い打ちをかけるラストシーンには寒気がするほど。なんだか凄い映画だ・・・・

kossy