劇場公開日 2007年6月9日

「ノーラン節の正体とは何か?」プレステージ あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ノーラン節の正体とは何か?

2021年6月24日
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鑑賞方法:DVD/BD

ノーラン監督の第5作

前作は大抜擢されて巨額の予算をかけた「バットマン ビギンズ」だった
それはまずまずのヒットを記録した
内容も期待以上の作品に仕上げてみせた
映画会社の上層部が心配したであろう独りよがりな演出はない
リブート企画を立ち上げる意味を良く理解してシリーズとして続けられる内容の大切な部分をしっかりと守った
それでいて彼独特の雰囲気を保っている
むしろ得難い才能の監督を得たという評価だろう

こうして英国でもハリウッドでもそこそこの信用が得られるようになっただろう
エキセントリックな映画しか撮れない男ではない
高い技量を持つプロフェッショナルだと

そうなればもちろん資金が集まる
だが他人の資金だけでは雇われ監督に過ぎない
自分のやりたいことを貫けない
ならばと、本作では製作者に監督自身と妻のエマ・トーマスの名前がある
幸い前作の収入で小金は入っていたのだ

脚本には弟のジョナサン・ノーランが加わった
つまりノーラン節を目一杯投入した映画を撮るぞという体制だ

本作の主な舞台はビクトリア朝ロンドン
なぜこの時代を選んだのかはテスラというモチーフが必要だったことは、もちろんある
しかし日本でいうなら時代劇ものでも撮れますよという意味のようにも感じる

まだまだ自分の才能の伸びしろはタップリある
もっともっと自分に投資してくれ
歴史物、戦争もの、SFもの
何でも撮れますよ
むしろ喜んでやります
他の監督とは一味も二味も違う、新味のある作品をお見せしますよ
そのような野心が匂っている気がする

観客は本当の事を見ようとしない、見たいものをみるのだ

マジックと映画はその意味でとても似ている

それがノーラン節だ
娯楽映画を観たくて映画館に足を運ぶ観客は、娯楽にしか興味はない
くそ難しい理屈や監督のメッセージなぞどうでもいいのだ
プレステージというべき、クライマックスでびっくり仰天させたなら喜んで帰っていくのだ

出来が良ければ、もう一回、友達もつれてまた観にくるかも知れない
それで興行は大成功間違いなしなのだ

そこが付け目だ
ノーラン監督はその娯楽映画にトリックを仕込む
ああ面白かったと帰っていく観客にトリックを仕込んでいるのだ

監督のメッセージをこっそりと仕込まれて映画を観終わった観客はそんなことには全く気付かずに内容を反芻しながら帰り道を急ぐ
なんとなく新しい物事の見方が出来ていることには気がつかない
まるで自分が考えたように思っているのだ
そうして寄り道したバーでその考えをさも自分の考えのようにベラベラ話し出す

それがノーラン監督のやりたいこと
すなわちノーラン節の正体だ

本作はその種明かしだったのだ
このようにこれからも映画を撮りたい
どんどん娯楽大作を俺に任せてくれ
それを使って大きなマジックをやってみせよう

そのプレステージを観たくはないかい?
そのような監督の声が聞こえるはずだ

私達はもう何度もそれを観た
その後の彼の作品がそれだ

ダークナイト
インセプション
ダークナイト ライジング
インターステラー
ダンケルク
TENET テネット

彼の作品を観たあと何かが変わる

マインドセット
パースペクティブ

なんと例えるべきか
そのようなものだ

ノーラン監督の作品を観れば見るほどそれが変わるのだ

真のノーラン節とはそれを指すのだ

ノーラン監督は007映画を撮りたいと念願しているという
当然だ
映画業界最大の娯楽大作、世界中の何十億という人間が公開されてからも何十年も観続ける映画なのだ
そこにトリックを仕掛ける
世界中の観客がただの娯楽大作だと思って観る
しかしそこには監督のメッセージが隠されて、こっそりと頭の中に仕込まれてしまう
まるで自分が考えたことのように
誰もが娯楽作品と思い込んでいるほど効果が上がるのだ

そんな一世一代のマジックショーのプレステージを自分は切に観てみたい

その日がいつか来ることが本当に待ち遠しい

あき240