劇場公開日 1988年10月1日

「親の犠牲となる子が選択するだけでなく「させてもらえる」将来に託された奥深い親の愛」旅立ちの時 シネマ大好きさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0親の犠牲となる子が選択するだけでなく「させてもらえる」将来に託された奥深い親の愛

2025年3月30日
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 この作品を一言で表現するとまさに「優愁」だろう。

 作品を貫くシドニー・ルメットの眼差しは優しさに溢れている。

 ルメットの膨大な傑作群(「十二人の怒れる男」「セルピコ」「狼たちの午後」「ネットワーク」「プリンス・オブ・シティ」「評決」「DANIEL」「その土曜日、7時58分」など)に感じられる徹底したリアリズムや完全に無駄を削ぎ落とした描写とは、やや異質なようでいて、その本質は心情描写において肩を並べるほど遜色がない。

 ルメットは終始キャラクターを優しく捉える。見つめる。愛する。特に、主人公とも呼べるリヴァー・フェニックスが担うダニーに対して最も深奥に迫る。この家族の長男役にはフェニックス以外にはいないと覚えるほどの説得力がある。

 ここに本作の主題が垣間見える。主題とは作品中にセリフとしても現れる「親の犠牲となる子の生きざま」である。ルメットは優しく「子」に選択を迫る。そして物語の最後に「子」は選択『させてもらえる』。どうして『させてもらえる』のか。それは「子」が」下す選択には「親」の愛が添えられるからだ。

 フェニックスは全編を通して、家族のため、親のために自身を犠牲とする。そこには「憂愁」や「悲哀」それに「優雅」が漂うが、それらを凌駕するのが「美麗」だ。それはフェニックスの内面から発揮されて外見に発露される。フェニックスの感受性は群を抜いており、その繊細さは観る者の心を揺さぶる。まさに「切ない」。

 ルメットの視点とフェニックスの感性を最大限に活かす脚本とその世界を柔和な光で満たす撮影それにそっと添えられる情緒豊かな音楽も特筆すべきだと感じる。

シネマ大好き
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