ロゼッタのレビュー・感想・評価
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「清く貧しく」などというのはブルジョワジーに都合のいい幻想に過ぎず...
「清く貧しく」などというのはブルジョワジーに都合のいい幻想に過ぎず、実際の貧乏人は頑固で狡猾で非人道的だ。それもそのはず、その日晩飯が食えるかどうかさえわからないような生活を送りながら他者や倫理を慮ることは難しい。まずはこの世界の中に確固たる自分の領分を得ること。貧乏人は普通の人々が当然のように持っているものを渇望するところから始まる。住所、仕事、尊厳。ロゼッタが売春や生活保護を拒むのは、彼女がただ単に生存することではなく、一個の人間として生きることに意味を見出しているがゆえだ。
とはいえここには逆説がある。ロゼッタが人間でありたいと強く思えば思うほど、彼女は頑固で狡猾で非人道的な手段を取らざるを得なくなるのだ。自分をクビにした社長に恥も外聞もなく直談判したり、はたから見れば彼女の行動は不愉快きわまりないが、そうする以外に彼女が人間の仲間入りを果たす術はない。友人を密告して従業員のポストを奪ったり。終始対象を寄せで映し続けるカメラはそんな彼女のなりふり構っていられない窮状を表している。
友人から従業員のポストを奪ったロゼッタはしばらく満足げに仕事に励むものの、良心の呵責から最終的に自ら仕事を辞めてしまう。すると踵を接するように疎遠になっていた友人が再び自分のもとに戻ってくる。彼女はそれを喜ぶが、彼女が友情の代償にまたもや貧苦のどん底に落ち込んでしまったことは言うまでもない。貧困が与える二律背反は、どちらを選んでも何かを失うことになる。
【”真っ当な生活を求めて・・”ラスト、ロゼッタが涙を流した訳。カンヌ国際映画祭の嗜好性が分かる作品でもある。】
ー 1999年のカンヌ国際映画祭でパルムドールと主演女優賞をロゼッタを演じた若きエミリー・ドゥケンヌが受賞した作品。(資料より)
エミリー・ドゥケンヌは、2017年の「天国でまた会おう」で劇場で再会し、感慨に耽ったモノである。-
■トレーラーハウスでアル中の母親と暮らすロゼッタは、酒に溺れ、家に男を連れ込む母親と喧嘩が絶えない毎日。そんなある日、勤め先の工場を突然解雇されてしまった彼女は、ワッフルスタンドで新入りの店員・リケと知り合い、そのスタンドで働き始めるが…。
・ロゼッタは訳なく仕事を解雇され、母を養うために、健気に仕事探しをするが、ナカナカ安定した職に就けない。1999年と言えば、リーマンショックの影響が欧州では続いていたのであろうか・・。
・ロゼッタを演じた若きエミリー・ドゥケンヌは、今作では常に愛想なく、笑顔が無い。それは彼女の苛立ち、焦燥感を示している。
そして、時折彼女を襲う下腹部の痛み。
・彼女はそんな中で、ワッフルの仕事を斡旋してくれたリケの行為を裏切る行為をし、リケの店を自らのモノとする。
<リケにバイクで糾弾されながら、母親と住むトレーラーハウスに、燃料ボンベを運ぶロゼッタ。
けれど、良心の呵責に堪えかねて、泣き崩れるロゼッタの姿。
カンヌ国際映画祭の嗜好(分かり易い所で言えば、「わたしは、ダニエル・ブレイク」「万引き家族」「パラサイト 半地下の家族」と言う作品が、パルムドールを獲得したように。)
・・格差社会を描いた作品を高く評価する傾向の先駆となった作品の一つである。>
失業問題
失業、職探し、キャンプ場でのトレーラーハウス、アル中でセックス好きの母親。それでも生活していかねばならないロゼッタ。時折謎の腹痛も起こり、お腹をさするためのバイブレータが離せない。キャンプ場のはずれにある沼地では禁止されているマス釣りの仕掛をするのが日課となっている。
ようやく男友達のリケの紹介でワッフル屋の仕事を見つけるが、社長の息子の気まぐれで3日でほされてしまう。このリケも友達がなさそうな雰囲気で、彼女に対して優しく接するが、性衝動も抑えきれない。ドラムを叩いているのだが、録音したわけのわからないドラムだけの音楽を聞かせたりする。
失業問題も深刻なのであろう。仕事のためなら恥も外聞もない。必死に店主にすがる光景が痛々しい。まさしく都会の中のサバイバルなのだ。そして、リケの親切心をも踏みにじる行動に出るロゼッタ。まずは沼地で溺れるリケを一瞬見捨てようとする。それでも彼女に対して親切にするリケ。自分のワッフルを売って、売上の一部を霞め取っている行動を社長にチクるのだった。その行動を反省し、自己嫌悪になったのだろうか、荒んだ心もやがては落ちつきを見せるのだが・・・
ラストは悲惨な結末になるか、中途半端な終わり方をするのか、ハッピーエンドは考えられない展開だ。社会の底辺を支えている貧困層の切実な思いが伝わってきたり、一人が職を得れば一人が職を失うといった現実を痛感。極端ではあるが、忘れられない映画になりそうだ。
小さな仕事にも食らいつこうという姿勢、職を得る為に好意を示してくれ...
小さな仕事にも食らいつこうという姿勢、職を得る為に好意を示してくれた人に対する考えられない行動、ドブの水溜りから抜け出すことができない日常にこの娘が選んだ最後の選択にさらなる予感を感じさせるラストまで一寸たりとも目が離せない、ロゼッタの嗚咽に貧困の恐ろしさに画面が揺れる、正真正銘の大傑作ですね。
貧困に深いまなざしをあてた佳作
貧困に生きる人々を深いまなざしで描いた作品。
余計なものを徹底的に排し貧困に生きる少女ロゼッタの日常を手持ちカメラによってリアルに描いている。
そこには映画によくある華やかな西洋とはかけはなれた世界でダンデンヌ兄弟のアイデンティティーを色濃く反映している。
貧困からくる劣等感、友人をつくり親しくなることへの恐れ、まっとうな生活に近づくことの喜び…、毎日を生き抜くことが全てという生活の中で揺れ動く心の葛藤が上手く描かれている。
作中ずっと無表情なロゼッタが感情をあらわにするラストシーンは、人の感情の美しさに胸をうたれる。
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