劇場公開日 2000年3月25日

「リンチ監督らしからぬ作風は、老齢の域に達した彼の人生への想いの総括だったのか…」ストレイト・ストーリー KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0リンチ監督らしからぬ作風は、老齢の域に達した彼の人生への想いの総括だったのか…

2025年5月19日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

他にも3作ほど観ているが、
私にとってのデヴィッド・リンチは
ただただ「エレファント・マン」の監督。
人間としての尊厳のために、あえて横になる
ラストシーンが忘れられない。

今回、「ストレート・ストーリー」が
TV放映されたのは、
リンチ監督が今年亡くなられたばかり
ということなのだと思うけれども、
彼のおどろおどろしいまでの
これまでの作風と、
この作品での芝刈り機で兄
(兄役は、なんとヴィム・ヴェンダース監督
の「パリ、テキサス」の主人公だった)
を訪ねるというこのロードムービーの作風が
繋がらず、興味深く鑑賞に入った。

しかし、なんとゆっくりとした展開の
作品なのだろう。
そして、そんなゆっくり感の中で
大切な価値があることを示すためか、
度重なる芝刈り機のトラブルにも
ゆっくりと対応する主人公の姿や、
職場に急いで車で鹿をはねる女性の話は、
そんな要素なのだろうか。

一方、戦時におけるスナイパー
としての心の傷を語る主人公の姿には、
人間は何かしらの後悔の念を持ったまま
晩年を生きるしかないのかという不安も。

また、色々な意味での“絆”を感じさせられる
作品でも。それは、
兄や娘との“血としての絆”でもあるし、
トラクター修理などで
道中でお世話になった方々との
“縁としての絆”でもあった。それは、
リンチ監督の作風らしからぬこの作品に
老齢の域に達した彼の、
人生を総括した想いを内在させるため
だったのだろうか。

ところで、この物語での老齢兄弟には、
それぞれに同居の子供が居るようなので、
ニュースで耳にする老人の孤独死よりは、
この兄弟の境遇は恵まれているように
感じてしまう昨今、
より厳しい社会環境に我々はいるのかも
知れないと思わされる作品でもあった。

KENZO一級建築士事務所
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