ボーイズ・ドント・クライ : 映画評論・批評
2000年6月29日更新
2000年7月8日よりシネマライズほかにてロードショー
オスカー受賞ヒラリー・スワンクの“男っぷり”は必見
ピアース監督は、この映画を作るにあたって参考にしたもののひとつに、ノーマン・メイラーの大著「死刑執行人の歌」を挙げているのだが、これはとても頷ける気がする。ともに実話に基づくメイラーの小説とこの映画には、それぞれの主人公に向けられた“激しい憎悪”に興味深い共通 点がある。
「死刑執行人の歌」の主人公である殺人鬼ギルモアは、自ら死刑を要求した。もし彼が狂人であれば人々は彼を受け入れられた。しかし彼は正常な人々に挑戦するでもなく、平然と主導権を握ってしまう。そのことが彼に対する激しい憎悪を生みだす。一方この映画で、主人公ブランドンを取り巻く人々は、彼を「変態」や「化け物」と罵るが、本当にそう思っているのなら彼は特殊な存在として受け入れられ、こんな悲劇には至らない。そうではなく、彼が当たり前のように自分を男とみなし、実際に男として主導権を握ってしまうことが、激しい憎悪をかきたてるのである。
そしてもうひとつ、「死刑執行人の歌」は、ギルモアと彼を無条件に受け入れた恋人ニコールの純愛の物語でもあったが、この映画もまた、ブランドンと彼を無条件に受け入れたラナの純愛の物語になっているのだ。
(大場正明)