バベル : インタビュー
メキシコの俊英アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥの新作「バベル」は、ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、ガエル・ガルシア・ベルナル、役所広司ら各国の豪華キャストが揃ったことも話題となった。しかし、そんな並みいる芸達者な俳優たちの中で、ひときわ注目を集めたのは、誰もが予想しなかった菊地凛子だった。ろう唖の女子高生という難役で、日本人女性として49年ぶりにアカデミー賞助演女優賞へのノミネートを果たした彼女に話を聞いた。(聞き手:編集部)
菊地凛子インタビュー
「この状況を受け入れ、ひとつひとつ丁寧に取り組んでいきたい」
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日本ですら無名に近い存在だった彼女は、一気に活躍の場を世界へと広げたわけだが、彼女自身は“世界”を目指していたわけではない。
「私は日本で女優としてやっていかれるかもわからず、不安や危機感もありました。そこにたまたま、私のリスペクトしている監督が現れて、しかも日本で映画を撮る。なおかつ英語が必要ない。そんなチャンス、もう2度とないかもしれない。女子高生の役で実年齢と離れていること、監督が本物のろう者を起用したいと考えていたということはありましたが、そういう状況に対して私ができることは、自分からアプローチしていくことだけでした。最初で最後の機会だから、飛び込んでいくしかないと」
役を約束されたわけでもない段階で、彼女は手話を猛特訓し、そのことが監督の心に届いた。
「壁は高かったけど、高ければ高いほど挑戦しがいがありました。オーディションに落ちるかもしれないという思いは当然ありましたが、どちらに転んでも意味はあると思いました。落ちてもいいという覚悟で臨んだ1年間のオーディションは、いろんなことを教えてくれた時期でした」
そうして晴れて憧れのイニャリトゥ監督との仕事を得た彼女だが、劇中ではヌードシーンもいとわず、まさに体当たりの演技を見せている。
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「(ヌードシーンの)抵抗はありませんでした。それだけ夢中で、本当に集中していましたし、あのシーンにはチエコの全てが出ている、ものすごく重要なシーンなんです。根本的な人間の美しさが表れているシーンで、そんなところに抵抗があってできないというのでは、何のために演じているのかわらかないですから」
この世界で成功するには、実力はもちろん、時として運やめぐり合わせのようなものが必要だ。待っているだけで、たまたま運良く流れに乗ることができる人もいるかもしれないが、彼女の場合は、めぐってきたチャンスを自ら引き寄せ、掴み取った。それは紛れもない彼女自身の力であるし、アカデミー賞という世界最高の舞台にまで一気に駆け上がった菊地凛子の今後は、誰もが気になるところだが……。
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「アカデミー賞後、確かに環境は変わったと自覚しています。今では“『バベル』に出た”菊地凛子であったり、“アカデミー賞にノミネートされた”菊地凛子であったり……。ただ、私自身“菊地凛子”がどうなるとか、あまり興味ないんです。私自身は大した人間じゃなくて、いろいろな役を演じることで、役が私に教えてくれるんです。これからもいい監督や役に出会って、いろいろなものを吸収していきたい。この状況は受け入れつつ、今やるべきことは、ひとつひとつ丁寧に、責任をもって真摯に取り組んでいくことだけですね」
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そんな彼女には、独特の笑いを提供する三木聡監督のコメディ「図鑑に載ってない虫」(6月23日公開)、初めて声優を務めるSTUDIO4℃のオムニバスアニメ「Genius Party」の一編「BABY BLUE」(渡辺信一郎監督/7月7日公開)、若い女性に人気のインテリアショップFrancfrancの15周年を記念して送り出すお洒落なラブストーリー「恋するマドリ」(大九明子監督/夏公開)など、多彩なジャンルの新作が続く。そして、海外進出第2弾となるエイドリアン・ブロディ、レイチェル・ワイズら、アカデミー賞俳優と堂々と共演する「The Brothers Bloom」で、再び世界の注目を浴びることになるのか。今もっとも目が離せない女優になった。