素肌の涙 : 映画評論・批評
2000年9月1日更新
2000年9月2日よりシアター・イメージフォーラムにてロードショー
ティム・ロス監督、衝撃デビュー
ティム・ロスとゲイリー・オールドマンはかつて「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」という映画でコインの裏表のようなコンビを演じた。英国の舞台出身、ハリウッド進出、個性的で幅広い芸風、と共通点の多いこの2人、その初監督作に自らのパーソナルな背景を投影させ、「撮らねばならない」必然に導かれている点も似ている。家庭内の地獄という重く救いがたいテーマを果敢に見据える、その強靱な視線まで。
だが、ゲイリーの「ニル・バイ・マウス」がロンドンの下町家庭をドキュメンタリー・タッチで捉えたのとは逆に、ロスの「素肌の涙」は荒涼たる海辺の町に、一種、神話的空間を創りだしている。父、母、娘、息子。母が出産した直後、息子は父と姉が近親相姦の関係にあるのではないかと疑い始める。性に目覚める年頃でもある彼は父と姉に激しい怒りをぶつけるが……。
原作は出版後さまざまな物議をかもした「The War Zone」。家庭という安らぎの場が「戦闘領域」と化す地獄。巣を失った人間の前には、この映画のような灰色の空と冷たい海が広がるだけなのだろうか。ロスの心象を映すかのような英国の原風景の中で崩壊する家族の姿が痛ましい。
(田畑裕美)