劇場公開日 2006年3月11日

「背後霊じゃないよ。」うつせみ kossyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0背後霊じゃないよ。

2019年10月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 謎の青年テソク。バイクで住宅街を走り、家の玄関にチラシを貼って去ってゆく。また戻ってきたかと思えば、チラシをはがしてない家の鍵をピッキングによって開け侵入する。金目のものには目もくれない。せいぜい冷蔵庫を開け、勝手に料理し、風呂に入り、ベッドで寝るだけだ。そして故障している家電製品を直し、住人の衣類の洗濯までしてしまう。

 冒頭から風変わりな行動をとる青年に引き込まれ、まったく台詞のない彼であっても純粋で孤独な心が手にとるようにわかる。SECOMの看板があってもなんのその。住居不法侵入であってもモノは盗まない。家人が居ても幽霊のような存在なのです。そんな彼が出くわしたのは、独占欲の強いDV気味の夫にうんざりしている人妻ソナ。孤独であり抜け殻のような生活を強いられる彼女とすぐに心が通じ合ったかのような雰囲気を見事な演出で描き出しています。

 原題は「3-IRON」。文字通りゴルフクラブの3番アイアンだけは盗んでしまった形となったが、もうひとつ盗んだのは人妻ソナの心。不法侵入する奇異な行動に同調して、何もかもが彼の行動パターンに重なり合うという新しい愛の形でもありました。なんといってもソナとテソクが二人とも足跡を辿るシーンが素晴らしかった。

 映像の美しさというよりも美しいまでの純粋さに心打たれましたが、ささやかな復讐やちょっとした事件まで無関心ではいられない。現実か夢かわからないといったテロップで締めくくられますけど、暴力によって残された傷跡だけは現実ですから・・・

kossy