姑獲鳥の夏 : 映画評論・批評
2005年7月19日更新
2005年7月16日より渋谷東急ほか全国松竹・東急系にてロードショー
徹底したこだわりで再現された昭和20年代の妖しの世界
京極夏彦のベストセラー小説を、独特の美学を持つ実相寺昭雄監督が映画化。夜の闇も、迷信や呪いといった民俗の闇もまだ残っていた昭和20年代の空気を光に徹底してこだわった映像で見事に再現し、斜めの構図の多様で目眩すら覚える妖しの世界に誘ってくれる。
昭和27年の夏。東京・雑司ケ谷にある久遠寺病院で怪異が相次いでいた。娘の梗子は20カ月も妊娠したまま。その夫は1年半前に書庫から忽然と姿を消した。さらに、病院で生まれた新生児が誘拐されとの噂が……。鬱気味の作家・関口(永瀬正敏)と人の記憶が見える探偵・榎木津らが調査を開始。不可解な事象が出揃ったところで、古本屋の主人、神主、憑き物落としという3つの顔を持つ京極堂(堤真一)に謎解きが託される。
人は見えないものが見えたり、見えているものが見えなかったりする。前半は、そんな人間の視覚の罠を映像で巧みに描写。後半は、呪いとしか思えない事件の全貌を、京極堂が、民俗学や心理学などを淀みなく説きながら論理的に解明し、知的好奇心を刺激される。俳優陣は抑制のきいた演技できちんと役をこなし、風鈴の音で我に返らせたり、紙芝居を狂言回しに使うなどの仕掛けも心地よく、丹念に作り込まれた映像世界を堪能できる。
(山口直樹)