イカとクジラ : 映画評論・批評
2006年11月28日更新
2006年12月2日より新宿武蔵野館にてロードショー
オフビートな話術に舌を巻く、おそろしく知的な悲喜劇
1980年代NYブルックリンを舞台に、両親の離婚という大問題へ直面してしまうどこかいびつなインテリ家族を、文学&ロック&映画の引用をちりばめながらリリカルに物語る、おそろしく知的な悲喜劇。「ウッディ・アレンの再来」といわれるノア・バームバック監督のオフビートな話術に舌を巻いた!
タイトルは、監督の分身である一家の長男が見ていられない恐怖の対象としての、米自然史博物館にある巨大ジオラマ「イカとクジラの格闘」のこと。すなわち、傷つけ合い別れていった父と母のことを暗示している。くんずほぐれつの情景はセックスをも連想させ、思春期の子どもたち2人は恋やセックスにトラウマをいだく。そんな具合に、ギミックやプロットが幾重にも配された脚本は最高のできばえだ。ローラ・リニー演じる知的な母親はいつもどおりだが、この悲喜劇に笑い薬を盛るのが、ジェフ・ダニエルズ演じる父親だ。その「ダメおやじ」ぶりにクスクス笑いが止まらない。インテリで文学や映画の知識は人一倍なのに、わが子や妻相手にテニスの真剣勝負を挑んだり、うまく社会となじめない。救急車に駆けつけてくれた元妻にやさしい言葉もかけられないのに、「勝手にしやがれ」のラストシーンのセリフを言うのは忘れない。バームバックの才能は相当なものだが、次回作が試金石になるだろう。
(サトウムツオ)