テキサス・チェーンソー : 映画評論・批評
2004年3月15日更新
2004年3月20日よりニュー東宝シネマほか全国東宝洋画系にてロードショー
宗教的画面が特徴のフォークナー的ゴシック・ホラー
「悪魔のいけにえ」は、エド・ゲイン事件にヒントを得た人肉家具とチェーンソーの唸りでカムフラージュされているが、その本質はウィリアム・フォークナー的な「南部ゴシック・ホラー」である。実際、都会の若い男女の乗った車が南部の田舎に迷い込み、異常者一家が隠れて暮らす家に拉致監禁されて延々と拷問陵辱されるという展開はフォークナーの「サンクチュアリ」からの引用である。今回のリメイクはそこを強調し、テキサスの田舎に迷い込んだ男女が地元の保安官に徹底的にイジメられる。女性の死体のアソコをまさぐって「濡れてるでねえか。お前さんがた、ホトケさんに悪さしたのけ?」とゲヒゲヒ笑う保安官を演じるリー・アーメイは、「フルメタル・ジャケット」(87)の鬼軍曹以来の怪演。問題はフルメタル保安官のキャラクターが面白すぎて、肝心のチェーンソーとレザーフェイスがまったく霞んでしまったこと。アーメイは「レジェンド・オブ・メキシコ」のジョニー・デップと並ぶ映画乗っ取り常習犯である。
監督のマーカス・ニスペルはパフ・ダディや スパイス・ガールズのPVで有名なプロモ&CM演出家でセピアに退色した宗教的画面が特徴。今回はオリジナルの「悪魔のいけにえ」でプロ・デビューした撮影監督ダニエル・パールと組んで、思い切りレンブラント調の闇を弄んでいる。
(町山智浩)