天国の口、終りの楽園。のレビュー・感想・評価
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キュアロン監督のスタイル
ルイサの夫は、小説家には自分のスタイルが必要だと言った。これは映画監督でも同じだろう。では、このセリフを言わせた監督、脚本のアルフォンソ・キュアロンのスタイルとはどんなものだろうか。
キュアロン監督は表面上で起こっているストーリーとは別に音楽と映像で物事を伝える二層構造の監督だと思う。
常に明るい晴天のメキシコ。途中で数えるのを止めたほどに何度も登場する結婚式(5回以上)と人の死に関するエピソード(8回以上)。登場人物の誰でもない、いわば神の目線によるナレーション。
これらは表面上のストーリーとは直接的には関係がないが、エンディングに向かうにつれ次第に融合していき、ラストで力強く輝く。
部活頑張る系以外の青春映画は総じて苦手なのだが、本作では一番苦手な破壊行為がなかったので想像以上に楽しむことができた。
というか、本作は青春映画の皮を被った人間讃歌とキュアロン監督のメキシコ愛の作品だった。
原題の訳は「君のママとも」。このアホみたいなタイトルさえ作品の本質を隠すための巧妙な罠だった気さえする。
二層構造の表層が青春映画で、本来の核である二層目が人間讃歌なのだ。
最終的に監督の意図するところを完全に読み解くことは私の力量ではできなかったけれど、逆にそれが心地よいモヤモヤとして頭の片隅に残り続ける傑作になった。
メキシコでは万物に生命が宿るという。「天国の口、終わりの楽園。」にも生命が宿ったような気がする。
決して色あせない
十何年前に一度観ただけなのに、ずっと覚えていて今でもふとしたときに様々なシーンが脳裏に蘇ってしまう、個人的には稀有な映画。
ロードムービーなので、テーマとして病気や別離を扱っているとは言えストーリーとしては軽め。
それでもしょっちゅう思い出してしまうのは、素敵な年上の女性に心奪われたり、憧れの人と結ばれたり、みんなでバカ騒ぎしたり、親友だったのにいつのまにか疎遠になってしまったり、そういったひとつひとつのシーンがすごく色鮮やかで、主演2人のハイ&ローテンションで生き生きと演じられていたからだと思う。ラテンムービーを代表する俳優に成長したのも納得。
てか、当時はよくある青春映画かと思ってなんとなく観たのだけど、実はアルフォンソキュアロンだったんだねえ。道理で最高なわけだ。
もう、会うこともない...切ないひと夏の物語
主演は、「モーターサイクル・ダイアリーズ」のガエル・ガルシア・ベルナルと「フリーダ」にちょこっと出ていたディエゴ・ルナ。監督は、「大いなる遺産」や「ハリポタ」シリーズのなんだったかな…とパリ、ジュテームのニック・ノルティが出ていたあの作品などを手掛けたアルフォンソ・キュアロン。
というワケで監督、キャストがメキシコ人のメキシコ映画です。
ちなみに脚本はアルフォンソ・キュアロンと弟のカルロス・キュアロンです。
撮影のエマニュエル・ルベツキは私の好きな作品だと「赤い薔薇ソースの伝説」「スリーピー・ホロウ」そして「アトランティスのこころ」の撮影も手がけている方。手持ち撮影を多用しているようですね...やはりメキシコ出身です。
映画の原題も当然スペイン語で
Y tu mamá también
「お前のママとも同じだよ」っぽい意味。ラスト近くになってフリオの口からこのセリフが出てきます。
真相を理解できた時、おいおい...マジで?ってなります。
この映画、とりたててストーリーといったストーリーはないのです。2人の若者と人妻がある場所を目指して旅に出るセックス&ドラッグに溢れるひと夏のお話です。
よこしまな想像はしてしまいますよね、この設定ですから...若者2人に人妻との旅...途中で目眩くシーンが盛り込まれてて、なーんてね。
車中から眺める流れゆく一瞬の風景、ドライブ中に出てくる馬鹿げた会話もこれまた刹那的。
メキシコの赤土でホコリっぽい空気を通してみる景色、時々すべての音が消されフリオとテノッチの心情、その時の政治で動くスペインの日常の様子を語るナレーションが淡々とした時の流れを際立たせています。
仔犬のようにふざけ合う若者2人と若者に体を許しても寂しさを拭いきれない人妻ルイサ…気が強くて若者たちを支配しながらも実はその心は脆さと危うさが共存しています。
最後はみんな違う方向に向かって歩き始めることになるわけだけれど、きっと“天国の口”を探した夏はほろ苦く甘く、それぞれの中に残ると思います。
凝ったストーリーはなくても特有の雰囲気とメキシコシティから海辺までの景色、若者の刹那的で自堕落でカオス的日々を切り取ることでノスタルジックな気分にさせてくれる素敵なロード・ムービーです。
中でも私がいいなと思ったシーンは、フリオとテノッチが彼女達を空港に送り届けた日の描き方。
空港の帰り道、車の中では彼らのおバカな会話にバカ騒ぎ、外ではデモ行進やら死亡事故、そこに淡々とナレーションが入る…新聞記事でも読んでいるように。
地味だけどすごくよいです、こういうところ。
所々に、「お....」と何か響いてくるセリフもあります。
天国の口、終りの楽園
この邦題、かなりそそられるし、映画の持つ切なさも表現されていて納得できます。よい映画です…
日本版DVDパッケージ...”もう、会うこともない。”という宣伝コピーがありますが映画のすべてがここに表現されていると思います。
メキシコ映画だと「赤い薔薇ソースの伝説」や「アモーレス・ペロス」もよいですね。
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