「人間、現人神、自然」太陽(2005) Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)
人間、現人神、自然
ひとりの〝人間〟が〝現人神〟として扱われる不条理。もともと天皇自身が神であるということを望んでいたわけではない。戦争の犠牲者をこれ以上増やさないため人間宣言をするに至った昭和天皇の内面の孤独と葛藤。全編を通して、監督の人間昭和天皇へのリスペクトと同情を感じた。
モヤがかかったような妖しい雰囲気、ソクーロフらしい幽冥界のような防空壕から、地上に出るとそこは戦後の焼け野原。
戦争で消失した命の記憶を消し去ることはできない。ソクーロフの戦争に対する憎しみ、哀れみの感情も込められていた。
アメリカは軍事力では日本に勝利したけれど、日本に太陽光のごとく降り注ぐ天皇の影響力を消すことはできない。〝自然〟が人間の勝敗など一切関係なく存在し続けるように、生物を愛する昭和天皇は自然の一部のようだった。
ラストが秀逸。皇后が帽子を脱ごうとして髪の毛に引っかかって取れない。それを天皇が黙って取ってあげるやりとりはとても自然で、仲の良い夫婦の日常そのものだった。
日本人はみなそれぞれの天皇論を持っている。しかし、いったんそれは脇に置いて、ソクーロフの渾身の表現を日本人が味わわずにどうする。能動的で成熟した鑑賞者としての振る舞いが重要だ。
なぜ敗戦のその日が描かれていないのか。ソクーロフが意識的に回避しているとしか思えない。日本人が描くべき課題、宿題としてバトンを渡されたように感じた。
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