「何もかもが中途半端で、やりたい事や見せたい気持ちの衝動が空回りしている駄作。」スチームボーイ Fate number.9さんの映画レビュー(感想・評価)
何もかもが中途半端で、やりたい事や見せたい気持ちの衝動が空回りしている駄作。
「産業革命時代のロンドン」というリアルな世界設定と、「空想冒険活劇」としてのファンタジー要素のバランス配分がどっちつかずで中途半端。
すべてのメカのメイン動力に蒸気機関と言う「縛り」があるせいで、どうしても良い意味での派手なアクションにならず、全体的に"こじんまり"としてしまっている等、とにかく全体的にハジけ切れていないと言うか、ノリ切れていないと言うか、演出にも、メカデザインにも、ワクワクさせられたり、驚かされるモノがほとんど見当たらない。それに加え、画面の"色合いの地味さ"が視覚的なテンションの盛り上がりを阻害する要因にもなっている。
アクションシーンでは、空を飛び回る主人公には弾丸も巨大アームも何ひとつカスリもしないという、古臭く、リアリティの無いご都合主義の連続であり、すべてが何処かで見た事のある凡庸なアクション演出のオンパレード。
科学の脅威の象徴として出てくる「スチームボール」も、単に「蒸気を高圧縮してあるだけの玉っころ」と言うだけでは、そこまで危険物扱いするほどの説得力に欠けるし、「飛行石」のような謎や幻想性も無し。
最大の見せ場であるはずのスチーム城が浮上するシーンに至っては、ただその場に浮かんで地上からの集中砲火の的になっているだけで、ラピュタ城のような「禁断の力」を解放する時のような"凄み"や"迫力"を何も感じない。
主人公のレイにも魅力が無く、その行動原理にもパズーのような明確な目的意識が無く、戦争や科学の何が悪くて何が良いのかを考えることもないまま、ただなし崩し的に騒動に巻き込まれているだけ。
ヒロインであるスカーレットの存在理由も薄く、居てもいなくてもストーリー展開にほとんど何も関係していない、ただの傍観者でしかない存在。高慢ちきな「お嬢様」というキャラも狙いすぎて、ただイライラさせられるだけで、個性付けを失敗している。
鈴木杏を始めとする声優陣にも違和感があるし、プロを使わない必然性が分からない。決してヘタではないが、メインキャラを任せられるほど上手くもない(特にじいさんのセリフ棒読みがヒドい)。
アニメーションの映像レベルは高いものの、不遜な事を言わせてもらえば、日本の漫画・アニメ界の頂点のひとりである大友監督が何年もかけて製作する以上、デッサンが優れているだの、描画が細かいだのは越えて当然のハードルのはず。
映画制作において監督自身が「オレはこれを描きたいのだ」という、表現の衝動がただ空回りしているだけで、エンタメとして不完全で中途半端な作品としか言い様が無い駄作。