SPIRIT : 映画評論・批評
2006年3月21日更新
2006年3月18日よりサロンパス・ルーブル丸の内ほか全国松竹・東急系にてロードショー
ジェット・リーの熱演に感情を揺さぶられてしまう
ジェット・リーが伝説に彩られた実在の武術家フォ・ユァンジアに扮し、入魂の演技で魅せる。最愛の家族を襲う悲劇など、フィクションをまじえた物語は少々作りすぎ。だが、ジェット・リーの熱演で、いつしか感情を揺さぶられてしまう。真の強さとは何か? それを見いだしていく精神的な成長を、目の表情や佇まい、闘い方で見事に表現している。
中盤、フォを失意の底に突き落とす料亭での武術家との闘い。ジェット・リーは、まさに野獣と化し、破壊の限りを見せる。しかし、中国人に誇りと勇気を取り戻させるため、海外の猛者たちと順に闘う後半は、様相が一変。巨漢レスラーやフェンシングの達人らと対戦し、見たこともない異種格闘技戦の醍醐味をスリリングに楽しませてくれるが、相手への敬意も伝わってきて胸を打つ。列強の権力者たちは悪人に、だが、対戦者はみな勝者を称える勇者として描いている点も好感がもてる。
なかでも最強の敵として現れる日本人の田中安野(中村獅堂)との死闘は、壮絶なうえに感動的。三連のヌンチャクと日本刀の対戦など、斬新かつ息詰まる闘いが繰り広げられるが、誇り高き侍として田中が描かれ、深い感銘を受ける。なのに、最後に流れる主題歌が、ジェット・リーの熱望に応えてジェイ・チョウが書き下ろした曲から、日本のバンドの曲に差し替えられたのは残念だ。
(山口直樹)