シルミド SILMIDO : 映画評論・批評
2004年6月1日更新
2004年6月5日より丸の内東映ほか全国東映系にてロードショー
あまりにも熱く、あまりにも切ない
かつて韓国に、死刑囚から成る金日成暗殺部隊が存在した。この事実だけでも衝撃だが、映画は社会的背景をきちんと示し、国家に翻弄される男たちの哀惜を重厚に描いていく。
当時の韓国は軍事体制で、社会は矛盾に満ちていた。集められた死刑囚は、将来に夢も持てずに落伍した者ばかり。リーダーとなるインチャン(ソル・ギョングが表情だけで複雑な心情を体現!)にいたっては、父親が北に亡命したために連座責任を問われ、ヤクザになるしかなかった。そんな男たちに、任務を完遂すれば英雄として社会復帰できると約束した軍の作戦は、恐ろしいまでに巧妙だ。
自身でつかみ取れる夢をはじめて得た彼らが、壮絶な訓練を耐え抜く姿は炎のごとく熱い。それゆえ、彼らと、彼らを訓練する兵士たちが絆を育んでいく展開も説得力がある。
しかし、夢も絆も政府の非情な命令が引き裂く。苦悩する訓練隊長が決断を放棄し、最悪の事態へと雪崩込む結末は、あまりにも切ない。すべてを失った男たちは、人民解放軍の歌を歌う。社会の最下層に生まれ育った彼らは、かつてその歌に魅かれたことがあったのだろう。だが、北も南も民衆の心を踏みにじった。その皮肉と痛みが強烈に胸を打つ。
(山口直樹)