昭和歌謡大全集 : 映画評論・批評
2003年11月5日更新
2003年11月8日よりシネ・アミューズほかにてロードショー
シュールとリアルが次々に重なり痛快
村上龍が94年に発表した同名小説の映画化で「おたく」と「おばさん」による殺しの対抗戦を描いている点では、「バトル・ロワイアル」+「OUT」に笑いのエッセンスを加えたようなテイストに仕上がった。
松田龍平を中心とした若者チームは殺人にさえ無感動だが、昭和歌謡に対しては異常なこだわりを見せる不気味さが身上。樋口可南子率いるおばさんたちは、仲間を失い復讐することで、生き生きした自分を取り戻すという皮肉さがにじむ。そして拳銃や爆弾を売る金物屋のおやじ(いつもの原田芳雄)や、歌謡曲を熱唱しながらバズーカを横流しする自衛隊員(古田新太)、そして戦場になるのは調布の街と、シュールとリアルが次々に重なり痛快。
村上龍が絶賛する脚本を得た篠原監督(「命」「はつ恋」)は、前半は多くの登場人物たちによる大仰なセリフ回しによる演劇的な演出、後半は生き残ったキャラクターによる戦闘シーンと分けており、2つのテイストをあえてそのままに同居させているが、後半の盛り上がりとともに松田龍平が精彩を失っていくのが惜しい。
肝心の歌謡曲だが、安藤政信VS鈴木砂羽の対決シーンに流れる「チャンチキおけさ」と、ラストの「また逢う日まで」の使い方が秀逸に尽きる。
(編集部)