「静寂をもって」サマリア ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
静寂をもって
「春夏秋冬そして春」で知られる韓国の鬼才、キム・ギドク監督が作り上げた極上の青春映画。
女子高生が遊び半分で行ってしまった援助交際から始まる、復讐と再生の物語。素朴な少女二人の悪戯から、その物語を壮絶な殺人劇場にまで昇華させる、キム監督作品のもつ奥行きの深さを存分に味わえる一品となっている。
余計な台詞回しを徹底的に排し、暴力が支配する後半の展開を映像と小さな効果音を使い沈黙の元に描ききる作風は、怒りと悲しみをマシンガンの如く台詞をぶち込んで描いていく主流な韓国映画の作り方とは一線を画す。どちらかと言えば、「間」を重んじる日本映画の雰囲気に近い。
復讐からは、何も生まれない。誰も、幸せにはなれない。その永久不滅の宿命を淡々と描きつつも、静寂の裏側で流れ出す人間の葛藤、不安、そして愛。紋切り型の人間ドラマからは見えてこない喜びが、溢れ出す。
前述の通り振り幅の大きい作品なので、多少目を覆いたくなる描写もあるかもしれないが、それでも目を見開き、飛び込んだ先には、思いがけない驚きと幸せが姿を現し、観客を魅了する。
キム・ギドク作品を味わうならば、まずは今作の観賞をお勧めする。静寂をもって耳をすまして、じっくりと楽しんで欲しい。
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