リチャード・ニクソン暗殺を企てた男 : 映画評論・批評
2005年6月1日更新
2005年6月11日よりテアトルタイムズスクエアほかにてロードショー
ペンにしか演じることが出来ない鬼気迫る追い込まれ方
ショーン・ペンは、疑いなく現代のアメリカ映画界を代表する優れた俳優だけど、最近相次ぐ公開作を見ていて、演技の“過剰さ”が個人的に鼻につきつつあった。ただし、この映画での彼は別格である。物語の舞台は70年代前半のアメリカ。ケネディ暗殺からべトナム戦争の泥沼化、さらにその是非を巡る世論の二分化……と60年代を通じて傷つき続けた末、“アメリカン・ドリーム”なんてもはや誰も信じられなくなった……といった状況にある当時のアメリカの荒んだ雰囲気が本作全般を覆う。
ペン演じるサム・ビックは、家族から見放され、金儲けや成功に至上価値を置く社長の俗っぽさに嫌気がさして仕事も辞めてしまう……といった典型的な“負け組”の人生を歩み、やがて、当時の大統領を標的にした“テロ”の計画へと妄想を膨らませるのだが、ダメ男の鬼気迫る追い込まれ方が、これはペンにしかできないなあ、と十分納得できるだけの絶妙な演技。むろん、政治的に左派として知られる彼としては、暗殺の手口が9・11を連想させるばかりか、今日のアメリカを支配する“新自由主義”(簡単にいうと、勝ち組/負け組の区別の絶対化)批判も射程に入る作品だけに気合いが入ったはずで、それも勝因だろう。
(北小路隆志)