レッド・ドラゴン : 映画評論・批評
2003年2月1日更新
2003年2月8日より日比谷スカラ座1ほか全国東宝洋画系にてにてロードショー
レクターはどこまでこのゲームをコントロールしていたのか?
「羊たちの沈黙」「ハンニバル」に続くシリーズの3作目。だが、クラリス捜査官の出番はなし。1作目以前の時代設定になっているからだ。代わりに登場するのは、レクター逮捕の際に重傷を負い、若くして引退した元捜査官である。
彼を支える家族との愛や元上司との腐れ縁、そして全米各地で一家を虐殺する「噛み付き魔」の悲しい生い立ちと、彼と盲目の女性との恋……。これまで以上に登場人物たちのバックグラウンドが、この3番目の物語を悲しく彩っている。彼らが背負う人生の広がりが、この映画の地図を作っているのだ。だが一方で、誰がその関係の広がりを支配するかを競うゲーム的な対決が、物語の前面に浮上する。人間的な歴史や悲しみなどものともしない強靭な精神こそ、レクターそのものであるからだ。
だから、初めての愛に目覚めた不幸な犯人の感情の高ぶりや、まさに盲目的な愛に奉仕する女性の一途な行動もまた、ゲームの策略の中に飲み込まれる。しかし果たしてレクターは、そこまでこのゲームをコントロールしていたのか? 1作目のシナリオライターが再度登板して書き上げたこの物語は、レクター以上の大きな力が、ぼんやりと書き込まれているようにも見える。それを「レッド・ドラゴン」と呼ぶことは可能だろう。
(樋口泰人)